黒曜石 | ナノ
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私は、考えた事もなかったんだ。黒崎君はいつの間にか私にとって大切になっている。本当に、“いつの間にか”、に。気付いたらいつも側にいてくれた。だからこそ気付けなかった部分がある。何で、黒崎君は私の側にいて、優しくしてくれるんだろう。
当たり前になっていた。黒崎君が私のお兄ちゃんになっていることが。“兄”というポジションにいつの間にか立っていた黒崎君。いつからそう思うようになったのかわからないけど、確かに私は黒崎君に何かを求めている。私だけが満足している、私のまわりに人がいる、という夢が叶った。憧れていた友達という存在も作れた。夢みたいに私を認めてくれる人が出来た。

――― それを、叶えてくれたのは紛れもなく黒崎君という存在。幾度となく繰り返してる。彼が私を変えてくれた。殻に閉じこもっていた私を引っ張り出してくれた。それは今でもずっと思い続けてるし、忘れた日などないほどに感謝している。黒崎君が私の側にいてくれる、優しくしてくれる、理由ってなんだろう。どうして私なんかを気に掛けるの? どうして私に気付いてくれたの? どうして、私なの?

当たり前のように彼が私の中に入ってきたから、気付けなかった。黒崎君が私の側にいるっていう事実が。黒崎君に、隣に居て欲しいと思うのは姫ちゃんだったはずなのに。彼は私に手を差し伸べてくる。私は、忘れちゃったのかな? 黒崎君との出会いは覚えてるよ。最初は、姫ちゃんの好きな人ってだけで苦手に思っていた。でも本当に素敵な人で。暖かい人で、苦手なんて気持ちを忘れてたんだ。お兄ちゃんに愛されていた姫ちゃん。だったら私も愛してくれるお兄ちゃんがいるんだ、と心のどこかで思っていた。望んでいた。兄という存在はいつも姫ちゃんを助けていたし、支えていた。だから私も必然的に惹かれた。そういう存在が欲しかった。いつのまにかそれが黒崎君に代わっていただけだ。彼なら私のお兄ちゃんになれるんじゃないかと思ってたんだろう? そんな馬鹿げた感情が私の中にあったのだろうか。

自分でもわからない気持ち。今まで黒崎君に抱いていた気持ちってそういうモノだったんだろうか。ややこしくなっていく考えにどんどん自分の気持ちがわからなくなっていく。答えを見つける鍵があるとしたらそれはどこに落ちているのだろう。案外足元に落ちていたり。そうだったら早く拾い上げて答えを見つけ出せるのに。自分の思考がこれほどまでに複雑に絡み合うなんてほとんどない。こんな経験も、こんな環境もすべてが初歩に近いのだ。小島君の質問…もしかしたら小島君は気付いてた? まさか、そんなはずない。私が気付けなかった思いに他人が先に気付くなんて、ない。


(雨音に紛れる白と黒)
雨が降りそうだ