黒曜石 | ナノ
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彼女の事になると慌てる顔とか、真剣な眼差しとか、態度が…好きだって、伝えていた。…あたしに。

彼が好き。尊敬もあるし、仲間としてもとても、とても大切な、黒崎君。好き、大好き、好き、誰よりも、思ってる。何度だって貴方を好きになる。たとえ離れ離れで、違う世界に生きていたとしてもきっと好きになった。何度でも、何処へでも、貴方が好き、大切。想う度、思う度、あたしの中の汚い物が疼く。あの子がジャマ。知らないうちに、無意識に、遠ざけていた。あたしの中で悪魔の囁きが聞こえる。あの子は邪魔者。あの子は敵。おなまえちゃんは…敵?

でも、本当に邪魔しているのはあたし。
彼は、あの子が好き。あたしが、彼を好き。彼が大切だから、あたしは応援しなくちゃいけないんだ。だって、黒崎君には幸せになってもらいたい。あたしだってあの子が好き。だから、あたしの大事な人を大切なあなたに幸せにしてもらいたい。2人には、笑っていて欲しい。だけど…あたしだって、彼が好き。まだ、終止符を打てない。まだ、好きでいたい。まだ、頑張っていたい。おなまえちゃんには…負けたくなかった。双子という私達の中でライバル意識が芽生えていたのかもしれない。あたしはお姉ちゃんだから、あの子より上でいたいなんて考えがあったのかもしれない。彼が、おなまえちゃんのことを好きなんだと解ってしまったのは、つい最近。あたしにだってわかった。彼は、彼女が…。その“最近”の中にもう一つ、落していた欠片を見つけてしまった。忘れていた、欠片。あたしの中に一陣の風が吹き抜けた。爆発しちゃったみたいに頭の中が痛い。風は、爆風の如くあたしの頭に混乱を呼んだ。たつきちゃんが、そんな事を言うから。気付いてしまったんだ。

「なんかさー、最近織姫の妹変わったよね」
「おなまえちゃん?」
「なんかさー、たまにだけど、笑うようになった」
「そうかなぁ?前からおなまえちゃんは笑うよ?」
「そりゃあんたの前だけでしょー」

おなまえちゃんを見てくれてるんだって、それが純粋に嬉しくて、その中心に居た黒崎君に感謝した。そう、純粋に。彼が、彼女を変えてくれた。あたしじゃない、貴方が。自己満足だけど、気持ちのままに彼にその旨を伝えたかった。“ありがとう”って“あの子を変えてくれて、ありがとう”って、伝えた、つもりなのに…彼は微かに眉を顰めた。

「何 言ってんだよ?」

あたしが“ありがとう”と伝える事がそんなに意外だったのかな?

「だって、おなまえちゃん最近よくわらう、から…それが、嬉しくて…」

教室の中の雑音が、消えた気がした。音が、入ってこない。

「アイツは、何一つ変わってねーと思うけど」

黒崎君の声だけが、耳の奥まで響く。

「え、…?」

何も、変わってない? どういう意味?それは、何を示しているの? そんな思いを目の前のブラウンの瞳に問いかけた。ガタン、椅子から立ち上がって机の上においてあった鞄を肩に下げて、一度あたしを見ると眉を下げながら笑った。

「じゃあな、井上。また明日、」
「あ、待って…っ、黒崎君!」

「おなまえは、元々ああいう奴なんだと思う」

すれ違いざまに放たれた一言に、彼が彼女を理解してるんだと、わかった。それは彼が彼女をよく見ているって事で、あたしは見れていなかったということ…。彼が見ているのは、あたしなんかじゃない。おなまえちゃんは、本来、今の姿が本来で…。それは、今彼女の周りに人が居るから出せる姿で。それは、全てあたしが彼女から奪っていたから出せなかったわけで…!好き勝手、あたしはやってた。いつだったか彼女のコンプレックスがあたしなんだと打ち明けていた。そこで気付くべきだったんだ。彼女が大切だから、あたしは居ない方がよかった? でも、彼女はそれを望む子なんかじゃない、それだけは間違えない。


あたしは邪魔者にしかなれないの?
偽りの表情だけ