黒曜石 | ナノ
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最近…変なものが見える。妙なものが見える。

変な物と言うか…人なんだけど。足が…ないのだ。最初は信じられないまさかの出来事に恐怖したが、どうやらこの方達は害を加えたりはしないようだ。いやだからって怖くないわけじゃないんだけど。取りあえずは、安心した、ですはい。怖いけど。だって幽霊。そんな感じで…わりと、いい…幽霊さん方だった。慣れてしまった私にも驚いたりも下が、何より驚いたのは、自分が“幽霊”という非現実的な存在を見えるようになってしまったということだった。彼らには悪いが、私はこれまで幽霊や非科学的な物は信じていない人間だったので、こうして見えるようになった彼らを始めは受け入れる事が出来なかった。(幼い頃は信じていたのかもしれないけれど、物心ついた頃はそんなものいないと信じていた)なんというか…衝撃的。私の中になんか革命的なものが起こったよ。
ぶっちゃけ…本音を言うと…見たくなかった。いや、あの、なんかごめんなさいすみませんお願いします呪わないでくださいごめんなさいすみません申し訳ないです。すみませんだから顔に影作ってこっち見るのやめてください。も、怖い。ちびりそう。いやちびる前にトイレ行くけど!

始めのうちは、今の現在のようにはっきりと姿を捉えていたわけではないのだけれど…こう、はっきり捉えちゃうと…いよいよ現実から目を逸らしたくなる。だって…なんか、ねえ?もしかして、私、妄想にとりつかれてしまったんでしょうか?いやそうであってほしい。そうだ、始めは…部屋の一点に染みのような物が浮き上がってきたんだ。今までには無かった、染みが。それは日を追うごとに形を変えていき、増大していった。私と同じくらいの大きさになった日が最後、はっきりと姿を捉えられるようになっていた。どうして今までその染みが人の顔をしてると気付かなかったのだろうか…。その染み、だと思っていたものは、実は幽霊でした☆(キラリーン) なんてどういう展開だこれは。どうなってるんだこの部屋は。悲鳴をあげそうになるのを寸のところで堪えてよく見ると、その、幽霊、の子は、私とあまり歳の変わらない姿の女の子だった。悲しそうに微笑んで私を見ているだけだった。

「ど うして…そこにいる、の…?」

気付けば話しかける自分が居た。自分が信じられない。マジ何なの私。勇者ですか勇者の魂を受け継いじゃったんですか私は。なんていうかなんていうか現実逃避したい衝動に駆られた。人間ならば普通こうなる。いやなったけど! なったけど! 話しかけてる!! 自分の微かな勇気を心の中でひっそり称えた。暫くすると彼女はゆっくりと口を開いた。私達の距離およそ10メートル。玄関と奥の部屋の奥の角。長い。なんだろうこの会話の仕方。傍から見たら笑える。私からしたら失笑ですけどね。

「ここが、居心地 いい から…」

幽霊に好かれる部屋か、ちょっとなんかレアだな。実は曰くつきの部屋だったりしちゃうんだろうか…! ただ、苦笑いしか返せなかった。私が見えていなかったというだけで彼女はずっと私の事をみていたのだろうか。なんとも言いにくい気持ちでいっぱいになった。何故か泣きたくなった。

「気付かなくって…ごめんなさい」

ずっと、彼女は…幽霊だけど、見えないのが当たり間のはずなんだけど、彼女は、ずっとこの部屋の角にいたんだと思うと悲しくなった。こんなに近くに居たのに、気付かなかった。それが普通だとしても、私は、気付いてもらえない寂しさも悲しさも知ってるから。彼女は目を見開いて「あなた、変わってる」、ちょっぴり嬉しそうに微笑んだ。気付いてもらえない寂しさ、孤独が与える恐怖、私は、知ってる。だから、彼女は私の側に居たのかもしれない。独りの私の側に居てくれたのかもしれない。もしかしたら、引き寄せてしまったのだろうか、私が。変な話だけれどそう考えると頬が緩んだ。

それから、私が落ち着いてきた頃は彼女がたくさんの話を聞かせてくれた。生前、嫌われていた事、自殺した事、とにかくネガティブな話題だった。怪談じみた内容だ。幽霊と怪談…これ以上に恐ろしい光景はあるんだろうか。目の前に幽霊、その時点で私の恐怖心はマックスハートなんだけど。まだやっぱ怖いです。私自身も怖い。何で普通に話してるんだろう。でも、後悔したって言ってた。私を見て後悔したと、言っていた。頑張ればよかった、あなたみたいに。なんて微笑んだ。少なからず私は前に進めているんだ、と思った。嬉しくなったはずなのに、悲しくなった。自殺なんてするんじゃなかったと笑ったけれど、命を絶つという決心は容易につけられるものじゃない。
絶望からの決意は楽なのか苦なのかわからないけれど、彼女は絶望の縁にいたんだと思うと、苦しくなった。胸が。人は自殺はズルイとか逃げてるとか言うけれど、決断する側からしたら大きな勇気を背にしているのかもしれない。どうかそんな風に自分を責めないで。どうか、そんな風に笑わないで。本当は泣きたいんだよね、いっぱい泣いて、誰かに肩を組んで、優しさに触れたいんだよね。そしたら今度は、優しさに包まれるから。死んじゃってからじゃ遅いのかもしれない、だけど、私、今あなたの事が見えるよ。だから、そんな風に自分を卑下にしないでいいんだよ。でも彼女は、どんなに苦しくても、涙は出なかったと、笑った。

「あたしってさ、強いから」

それを強いとするなら私はなんなんだろう。ミジンコ?プランクトン?とにかく弱すぎる。弱い。私なんていっつも泣いてばかりだ。些細な事で泣いてる。
今も彼女の話を聞きながら大泣きしてる。涙が滝のように休むことなく頬を伝っている。なんかもうホントすみません。そんな私に彼女は笑う。

「泣ける強さもかっこいいよ」

思わず何処がだよとツッコミを入れるところだった。かっこわりーよ。泣ける強さって何。泣き虫なんて強かねーよ。弱いよ。コイキングより弱いよ。ギャラドスになりてーよ。泣きつかれて寝てしまった、次の朝、彼女は消えていた。


(ねぇ、やっぱり君は強いよ。)
一人で戦う貴方