黒曜石 | ナノ
×


「………」
「おなまえ…?」

まだ寝ぼけているのか、んーとか唸りながらゆっくりおなまえが上半身を起こす。焦点が合ってない。ゆっくり顔を動かすと、黒く澄んだ瞳に俺が映った。吸い込まれそうな瞳は寝起きでもキラキラと綺麗でドキリとした。いつしか本人はその泉のような、深い瞳が苦手といっていた。コンプレックスの一つだと切なげに目を伏せたんだっけか。長い睫が陰になって、不謹慎だと思いつつ見入っていた俺が居た事を思い出した。こんなに綺麗な瞳に映されたら、人はきっと見透かされたような、己の影が全て黒い瞳に映されてるみたいな。そんな感覚に陥るのが恐いんだ。綺麗過ぎて、恐くなる。そうあの時、言えたらよかったのに。言えたらきっとおなまえは、もう一歩進めたんじゃないかと思う。少しでも、その眼が綺麗だと思えたかもしれないのに。少しでも、自分が好きだと、変われたと思えたかもしれないのに。自分の情けなさが恨めしい。そんな事言ったら、告白みたいで恥ずかしいと餓鬼な俺は形に出来なかった。その癖欲情ばかりが溢れ出して、気持ち悪い。ホント、餓鬼だ。そんなトコばっかいっちょまえで。

「黒、…崎くん!? わ、黒崎君だね!」

やっと覚醒したのか目を見開いて驚きながら、乱れた髪を慌てて直すおなまえが、誤魔化すようにへらりと笑った。しかも意味不明なことを口走りながら。俺だね、ってどういう意味だ。

「おはよう!あれ、今何時?!…え、私なんで、屋上に居たような気がするんだけど!」
「倒れたんだよ!屋上で」

だから無理すんなって言ったろ、ちょっと怒ったフリしながら、軽く指先で額を小突いてやった。

「…………」
「…何だよ」

何か、言いにくそうに目を伏せながら、ちらりと上目遣いで見てくる。

「…運んでくれたの?」
「俺しかいなかったし」
「おっ!、重かったでしょ…」

小さく遠慮しがちに言いながら顔を赤らめるおなまえが可愛くて。このまま独り占めにしていたいと餓鬼ながら(ガラにもなく)思った。護ってやりたくなるような儚さを帯びた、伏目がちな瞳と、揺れる長い睫に鋼の理性が揺れた。その目に、俺は弱かった。

「全然。お前あんま食ってないだろ。忙しいからって食わねーとまた倒れんぞ」
「大丈夫だよ!黒崎君の倍は食べてるかもよ!」
「………」


必死で否定するが可愛くてちょっと笑えた。
明らかに嘘だろ