黒曜石 | ナノ
×


いつもの事だけど、楽しい時間は楽しくない時間に反比例して短く感じる。時計の秒針はいつも通りのリズムを刻んでいるのに。授業開始5分前を知らせる音が、屋上、グラウンド一面に響いた。外にいた人がゾロゾロと中に入っていくのが見える。そろそろ戻ろうと切り出す小島君に続き浅野君も立ち上がる。近くに居た茶渡君が黒崎君に何かを耳打ちしてから、早く行こうと促した。黒崎君は小さく頷いて眉間に皺をいつもより寄せながら、ゆっくり左右を見回した。
何か、違和感を感じた。空気が、揺れている。肌に掛かる風がヒリリと痛い。小島君が立ち上がって、浅野君も立って、茶渡君が早く行こうって促して…。何かが、変わった。痛いと感じた腕を庇う様にさすって、ドアに向かう3人に視線を移す。私も行かなくちゃ。なんだか居てはいけない気がした。地面に手をついて立ち上がろうとしたのだけれど、脚が凍ってしまったみたいに動かない。これが金縛りというものなのか。解らないけどその例えが一番聞き慣れる表現だとのん気に考えていた。そんな事考えてる場合じゃないのに。
背中に激流が走った。

「…っ……」

先程とは違った寒気が私を包んでいるみたい。まるで、ここに居ろと言われているみたいな。早くここから動かなきゃいけないと頭の中で警報が鳴っているのに。居てはいけない筈なのに、ここに居ろと誰かに命令されてるみたいだった。二つの命令が私を止めた。

「一護!」

朽木さんがさっきとは明らかに違う態度で声を張り上げる。あれ、さっきまでの綺麗な笑みは何処へ…。

「わーってる!」

何処からか朽木さんが手袋のような、グローブの様な物を取り出した。打って変わった朽木さんの態度に驚いている暇もなく、素早く装着したそれを黒崎君の額に押し付けるように掌で叩きつける。黒い、塊が見えた、ような気がする。


それが何なのか捉える前に、襲ってきた激痛に意識が途切れた。
黒い塊と橙いろ