黒曜石 | ナノ
×


話しながら自然と向かったのは屋上で、勝手に足が進んでいた。

「屋上で食べるの?」
「大体いつも屋上で食べてるよ」

へー、と曖昧な言葉を返して、何か忘れているような感じがした。はて?屋上に何か忘れたっけか?いや、普段から行かないし…何この喉まで出掛かってるのにそれが何か分からないじれったい感じ。あー、気持ち悪いー。

「明日からおなまえさんもおいでよ。」

有難すぎる申し出に、頭の中にあった疑問の存在を忘れた。

「い いの?」

いつも私が一人で食べてるから?気遣ってくれた? 同情? あ…社交辞令だったかな…?

「うん。来てよ、皆も喜ぶと思うよ?」

キョトンとした私を見て笑って、屋上のドアノブに手を掛ける。生温かい風が隙間から 私達の隙間を通り抜けた。みんな…? みんなとは誰でしょう…思考を巡らせる前に視確認。


「おなまえ、来たのか」
「あ…おは、こんにちは」

先程小島君に笑われたばかりなので、おはようと言い掛けたのを急いで飲み込んで、今度はちゃんと時間にあった挨拶で声を掛ける。

「僕が誘ったんだ。一緒してもいいよね(…感謝してよね)」
「お、おう…(アリガトウ…?)」
「おなまえ・すぁぁわぁぁああん!!!」
「はいぃー!?」

黒崎君の後ろで佐渡君と話していた浅野君が 光の速さで私と小島君の間に割り込んできて、半泣きになりながら私の手を握ってブンブン痛いくらいに振り回してきた。あ、ちょ、マジで痛いです…!

「さぁさぁさぁ!男ばっかッスけどどうぞお寛ぎください!!」

さぁこちらへ!と傅いて、腕を奥に伸ばす浅野君。こんな時どうしたらいいんだろう!今の時代はこーゆーのが主流なのかしら…ていうかどっちかっていうとレトロな英国プレイのような…。

「えっと、あ、はい…ありが、え、」
「浅野さん…興奮しすぎ。気持ち悪い」
「!…距離を感じるぅぅ! 何だよ水色その他人を見るような目は!?」
「だって、他人でしょ?」
「爽やかに笑ってらっしゃる…ッ!!」

「………」

あたふたと若干挙動不審な動きで奥に進むと、黒崎君の隣にちょこんと朽木さんが座っていた。小さくて気付かなかったや。ぼへーと失礼な事を考えながら何処に座ればいいんだろうと一度辺りを見回す。困っていたのに気付いてくれたのか、隣座れよ、と黒崎君が促してくれた。チラリと私を、ストローを咥えたままの朽木さんが盗み見て、1人分のスペースを作るように移動してくれた。もしかしなくても、気を遣わせちゃった…かな。

「あ りがとう、朽木さん」
「いいえー」

軽く頭を下げて黒崎君と朽木さんの間に座る。…私邪魔者だったりしないか? 朽木さんいつもここで食べてるのかなー、ちょっと羨まし…意外だったなぁー。何か話したの初めてかも。肌とか綺麗だよ。

「あ、そうだおなまえさん、これドーゾ」
「何?」

浅野君との会話を終わらせた小島君がいちご・オレを差し出してくる。

「おなまえさんの分」
「私の分、え…いいの?」
「もちろん」

にこり、小島君の笑顔って可愛いなぁー。癒されるなー。

「ありがとう! いただきまーす!」
「いちごオレ好きそうでよかった」
「うん、大好き美味しいですよね」
「そういや井上朝どーしたんだよ。居なかったし」

早速 貰ったばかりのいちご・オレにストローを差し込んだところで、黒崎君がお弁当を仕舞いながら尋ねてきた。

「寝坊しちゃって…」
「おなまえさんが遅刻なんて珍しいね」
「サボってる事はよくあるけどな」
「何で知ってる…ってか、遅刻もそんなに珍しくないよ」

いつもギリギリだよと付け足して(教室にはHR始まる直前に入る)力無く笑ってみせる。
突如浅野君が心臓辺りを掴んで後方に倒れた。小島君が白っとした目で見てるのがちょっと切なかった。浅野君て、弄られキャラなのかな?(主に小島君に)
…どうしたんだろう。頭打ったように見えたけど大丈夫ですかね。
くいくいと袖を引っ張られてると思ったら。笑顔で話し掛けてくる朽木さんに思わずビクっとなる。……? わー、話しかけられたー!

「おなまえさん…とお呼びしてもよろしいかしら?」
「う、うん!好きに呼んでください!」

…何かどこぞのお嬢様って感じでちょっと、慣れないなぁ…。口調が…。どうせ私は庶民ですが!見栄張って私もお嬢様口調で返そうかな。なんて考えていたら、顔に出てたのか黒崎君が 頼むからやめてくれ、って疲れたような顔して言った。…何かあったんでしょうか。やつれてる。

「おなまえさん…顔色があまり良くないみたいですが…大丈夫ですか?」

どうやらやつれていたのは黒崎君じゃなくて私の方だったようだ。

「…、そんなに悪い?…あー、夢見が悪かったからかな」
「それを言うなら寝覚めじゃねーの?」
「え、夢見でしょ?」

言われてみればいつもより身体が重いかも。ちょっとダルイ。いやそこまで酷くもないんだけど。

「無理 なさらないでくださいね。倒れてはお姉さまも心配なさるでしょうし」
「え…あ、あぁ…うん!」

朝の、夢の事を思い出す。背筋が凍る。暑い風が吹き抜けるけど、急にして私の周りだけ北風へと変わる。寒い…。今の、私はちゃんと笑えてるかな。泣きそうな顔なんかしてないよね?

「大丈夫か?保健室付いてってやろうか?」
「いいよいいよ全然平気!」


心配そうな顔を見た途端、寒気は消えた
嘘、30%未満