黒曜石 | ナノ
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それにしても、あんな夢を見るなんて。

「どうして今頃…」

何かの前触れ?何か嫌な事でも起こるの…? 夢を見た以外は普段と何ら変わらなくて、それがまた不安を煽った。それと同時にハッキリとしない事に苛立ちが膨らむ。

「………」

そろそろ、出ないと。朝食の最後の一口を飲み込んで、温くなったココアを一気に啜った。粉っぽさが喉を通り、咽返りそうだったのを堪え、ブレザーと靴を履くのとを同時に済ませ、鞄を引っ掴んで外へ出る。青い空が私を見下ろしていた。


「のんびりしすぎた…」

学校の門を潜るとちょうど昼休みを迎える鐘が響いた。うーわー大遅刻ですよ。お昼だけ食べにきましたー!みたいな何処の小学生だ私は。とりあえず職員室行かなくちゃ。言い訳はどうしよう。妊婦を産婦人科まで付き添ってたら遅刻しちゃいました!…ベタ過ぎて恥ずかしいわ。軽く反省しながら職員室へ戸惑い気味に入る。結局うまい言い訳は浮かばなくて、半ば投げやりに…迷子の小学生を学校まで連れってってたら遅刻しちゃいました!と先生と目も合わさずに早口に述べた。ら、下手な嘘はいいから、って言われて軽く叱られた。…無理がありすぎたかな。今後の為に言い訳を考えておこう。これ今後の課題。
はぁ、力なく溜息を吐いて職員室の扉を閉めると、たまたま目の前に小島君が通りかかる。

「お、おはよ!」

携帯を弄っていた小島君が一瞬遅れて返す。歩きながら携帯弄るなんて器用だなぁ…。
「あれ、おなまえさん…今来たの?」と、携帯をポケットにしまいながら、「もう こんにちはの時間じゃない?」と驚いた風な顔を崩して笑った。それから、おはよーって悪戯っぽく笑って付け加えた。挨拶を交わしただけなのに、胸の内から暖かいものが込み上げてきた。

「僕、お昼これからなんだけどおなまえさんもおいでよ」って誘ってくれて、込み上げるものが更に胸の中に広がっていく感じがした。

「ご一緒していいの?」
「うん。あ、ちょっとまってて」

そう言うと小走りに購買の方へと消えていく小島君の背中を見送りながら、にやける顔を必死に抑えている私がいて。いいなぁ、誰に言うでもなく小さく小さく呟いた。何がいいのかは私にも分からないけど、いいな、そう思った。きっとこの気持ちに満たされていく事が、いいな、って思わせるんだ。嬉しい事、なんだと思う。
それから暫くしてパンを抱えながら小島君が小走りで戻ってくるのが見えた。

「お待たせー!」

そう言って笑いかける小島君に私も「早かったね」って笑って返して、それが合図みたいに歩き出す。

「おなまえさん最近元気だよね」
「私はいつも元気なつもりなんだけど」
「そうじゃなくって…最近、前より、―――」

「人間観察は得意なんだー。何か最近あったんだ?」
「あったー、かな…?」
「へー。何?よかったら訊いていい?」
「…お友達が…増えた。」
「あー、最近一護とよく話してるもんね」
「小島君も友達だと思ってるよ?」
「あれ、おなまえさん言うようになったね」
「えぇ?!な、何を?!」
「ううん、僕も友達になれて嬉しいなーって」
「え、うん、あの、ありがと、う…?(…?;;;)」


(今の方がずっと美人だよ)(美人とか関係あるの!?)
明るくなった?