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ずびっ、と乙女の欠片も無い音を立てながら、鼻を啜る私はきっと女として見てもらうのは難しいんじゃないかな。 「涙は止まったんだけど…鼻水が…」 「鼻水かよ!」 しかもハンカチなんか持ってなくて、うわ女の子じゃない気が…。啜ってもタラリとだらしなく出てくる鼻水をほっとくわけにもいかず、別の意味で泣きたい衝動に駆られながら袖で拭いちゃおうと思い始めた時、 「ほら、早く拭けって」 白いハンカチを差し出しながら苦笑いをする黒崎君。 「…だだ駄目だよ、鼻水付けちゃうんだよ?!」 しっかりしてるなー。なんて関心しながら出しかけた手を急いで引っ込める。そこまで醜態晒す勇気はない! 「じゃあ返さなくていいから。…早速垂れてんぞ」 うぅ、心苦しいけどここは仕方ない。さよなら、私のささやかな勇気と微々たるプライド…。 「厳重に洗って、アイロンかけてから返すから!」 頭を膝にぶつかりそうな勢いで下げて、手を頭の上に掲げる。 「別にいいって言ってんのに」 震えた手でハンカチを掴んで、顔を上げずに黒崎君から180℃背を向けて思い切り鼻をかんでやった。 すみませんすみませんごめんなさい! もうなんか泣きたいごめんなさいマジごめんなさい私の鼻水がごめんなさい!ハンカチ様黒崎様すみませんんん!! 汚れてしまった、というか私が汚してしまったそれを素早くスカートのポケットに押し込む。軽く指で鼻の下をさすって大丈夫か確認してから、再度黒崎君に向き直る。わぁもう…色んな意味で気まずい。黒崎君は平気みたいな事言ってたけど、私が平気じゃないよ。涙より鼻水が先に止まってくれたらよかったのに。 「い、色々とすみませんでした…ハンカチとか…」 申し訳なさから目を泳がせながら謝ると、「気にしてねーって、だから気にすんなよ」って言ってくれて、笑って、左頬をつねられる。 「いひゃって、いたひ!」 いだだだだ!力強いって! ほっぺたのーびーてーるー! ジタバタと腕を回して講義してみると、黒崎君の眉間にいつもより皺が出来て次の瞬間噴出す様に腹を抱えて笑い出す。 「っ…わらわな、」 未だに喉で笑う黒崎君に笑うなと叫べば、悪気無しの笑顔で、いや笑顔と言っていいのかちょっと疑問な笑い顔を浮かべた黒崎君が謝る。そー笑われると言葉が出せなくなるんだけど…。そんな爽やかに笑ってくれなくてもいいのに。意地悪してるのかな。ちょっと恨みの篭った目で黒崎君を見上げると、嬉しそうに目を細める黒崎君が私を見ていて、ドキっとした。…やっぱり黒崎君は意地悪だと思います。 「お前の、手伝いが出来てよかった」 そんな事言うから、怒る気が失せちゃった。黒崎君もくさいこと言うよなぁ。 「‥‥うん‥」 (気付いてくれて、ありがとう) (可愛いなんて、絶対言えない) ありがとうって精一杯の笑顔を。 最大級の気持ち |