黒曜石 | ナノ
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「何か、あったんだろ。」
「ないよ」
「言いたくない?」
「………」
「…俺に言えない様な事か?」
「………」
「でも、泣くほど、辛かったんだろ?」
「………」

何も答えてないのに、黒崎君は小さく笑って。

「そっか」って、それだけ言って押さえていた肩から手を下ろして、頭を撫でてくれて…不思議と安心出来るその体温と左右に流れる一定のリズムを刻むその手に、自然と目元が緩んだ。目元に溜まった涙の粒が静かに流れた…。


****


「?…妹さん、どうかしたのかな?」
「…さぁ…」
「おなまえちゃん…?」


どうしたんだろう…急に。去り際に瞳が揺れたところを視界の端で捕らえた。泣いてる…?

“私達双子だもん”

おなまえちゃんの言葉が頭の中に響く。今ハッキリこの意味を理解した。


“双子って”

“誰よりも近いから、”


“辛いときは、辛いんじゃないかな。私も。”

さっきまでのあたしがそうだったように今度はおなまえちゃんが悲しいの? 本当だ、双子ってこんな時、辛いんだね。

「あたし、おなまえちゃん探してくる!」

おなまえちゃんが、今どう思ってるのか分からないけど。これだけは、解るよ。悲しんでる。

「ええー! その内戻ってくるって!」
「越智先生に呼ばれてるんだしさー」
「そうだけど…でもほっとけないよ」

それだけ伝えおなまえちゃんが走って行った道を辿る。

「確かこっちに…ありゃ、どっち行ったんだろう?」

廊下の角を曲がったのは確かだよね。廊下の角の先は階段で、下に行ったのか、上に上ったのか、どちらか。…屋上? とりあえず、一応下の階の踊り場を見て居そうになかったら上に行こうと決めて、身を乗り出して確認すると…居た。下の階のその下の階の踊り場に、黒崎君と。

「…黒崎く、ん…」

また、一緒だ…。

「わ…たし、気付いてほし、かった…で」
「おう」
「でも…どっか、矛盾してて…っ」
「ああ」
「…苦しく、て…」
「……」

黒崎君はポツリポツリと断片を話す私に、静かに相槌を打ちながらゆっくり頷いてくれる。彼の優しさに甘えながら、続きを促してくれる彼に応えるように話していた。


誰にも言いたくないのに、誰かに聞いてほしかった
知らずに縋って