走る | ナノ
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・・・・・ 7・・

日曜日、地図を見ながら散策。

コンビニの位置と、スーパーの位置などを確認しておく。ふむ、あっちには商店街があるのか。帰る間際に銀行に寄ってお金を下ろす。お小遣いなんかはこうして入手するわけですね。早く慣れなくては。来た道とは別のルートで家路についていると、ひっそりと佇んでいる公園を発見した。
ブランコに座って軽く漕いでみる。錆びた鉄がキィと音を立てた。なんだかその音に、心が落ち着いていくようだった。楽しくなって片足で強く地面を蹴ってみた。さっきよりも高い位置から世界を見る感覚が嬉しくて今度は両足で地面を蹴る。子供みたいだと我ながらに思う。ブランコ一つではしゃげる私も安上がりだなあ。良心的な何かを感じるよ。
10分くらい漕ぎ続けたところで体力の衰えを感じたもう無理、お尻が痛い。でもまだブランコを漕いでいたいという変な意地が湧いてきた。はっはっは心はまだまだ若いんですね。懲りずに今度は立ち漕ぎをしてみる。軽く膝を曲げるとまたキィキィと音を立ててブランコが揺れた。足元を見る。浮いている自分の足が何だか不思議で、回りの景色も忘れて、漕ぎながらずっと足元を見ていた。ふっと、目の前に影がさした。人の影だと思われるその形を辿ると、目の前にいたのは精市君だった。どこか訝しがるような目で私を見ていた。怪しい人を見るような感じでしたね。
肩にはテニスバッグを背負っている。昨日の夜言っていたが彼はテニス部の部長だそうだ。(そういえば今日は部活のあと部員の人と何処かに行くと言ってたから、今はその帰りなのかもしれない)
吃驚して「うわっ!」奇声をあげながら後ろへ倒れた。ていうか足が前に滑った。ドサっという音と背中に走る痛みが同時に脳を刺激した。あ、痛い…!背中からお尻にかけて痛いです。


「こ、こんばんは…っ!」
「倒れられたまま言われても…」

恥ずかしいところを見られてしまった。上着を脱いで砂を払ってから精市くんにちゃんと挨拶する。精市くんは笑っていた。おかしそうに口元を押さえて笑っていた。やっぱり美人さんだった。歩弓さんも悠ちゃんも美人系。幸村家=美人家系、そういうことか。

「ごめん。笑うつもりなかったんだけど、まさか転ぶとは思わなかったから…大丈夫?」

そう言ってテニスバッグを担いだままの精市君が私の目の前で腰を屈めて落としてしまった鞄を拾ってくれた。それを受け取りながら「大丈夫、吃驚しただけ」と返した。

「ていうかこんな所で何してたの?」
「この辺を散歩してたらたまたま公園を見つけまして…ブランコを漕いでました」
「ふーん」
「そしたら段々楽しくなってきちゃいまして…」
「そう。まあ別にいいけど、俺に関係ないし」
「あ、えっと…精市君も今帰りですか?」
「でも、スカートでブランコ漕ぐのはおすすめしないな」
「……え?」

私の質問を華麗にスルーして 言った精市君の言葉の意味が一瞬よくわからなかった。一瞬っていうか情報処理に一瞬以上もの時間を有した。暫し硬直。秒数でいうと5秒くらい。たった5秒でも1から数えると結構長く感じるのものである。時と場合にもよるけど。今回は長く感じた5秒間だった。うん、情報伝達を含めると10秒くらい硬直していたかもしれない。息をするのはおろか瞬きするのも忘れてしまった。テニスバッグを肩に掛け直して、精市君がまた笑った。

「風の強い日にはなおさら、ね?」

そう残して背中を向ける精市君に一気に顔が紅潮する。気付いてたならもっと早く声を掛けて欲しかった。…先に公園を出てしまった精市君を追ってもいいのかわからなくてまた10秒くらい思考する。ていうか、さらに気まずくなった!恥ずかしいのを誤魔化すためにわざと精市君の名前を大きめの声で呼ぶと、かなり嫌そうな表情をしながら、ギロリと睨んでくる精市君が振り返って一言。

「人の名前叫ばないでくれる? ――― 水玉パンツ」


(ダブルパンチを喰らう)
見られた