走る | ナノ
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精市くんが変なこと言うから、変に意識してしまってしかたない。私の反応見て楽しんでるよねあの態度。自分は私の事なんて、きっと1ミリも意識してないだろうから全然余裕なんだろうけど?人の気も知らないで自分は余裕かまして!そんなところも好き!いや違う!違わないけど違う!私のこと好きじゃなくても、女の子だってことは解って欲しいな。家の中に女の子と二人なんだぞって意識してくれてもいいのに。………って思ったけど二人とも意識しだしたらぎくしゃくしちゃうんじゃ…これから生活しづらくなるんじゃ…え、待ってそうじゃん。いつまで幸村家にお世話になるか解らないのに精市くん好きになってよかったの?トントントン、と精市くんのこと意識して、好きになってしまったけれど、どうにかならなくてもなってもよくないんじゃないか、なんて、トントントン?

「山盛りだね」
「…………?」

精市くんの声でグルグルまわっていた思考が止まる。そしてハッとなった。キャベツを切っていたら、いつの間にか1玉全部千切りしてしまっていたらしい。手元を見るともうすぐ自分の手まで千切りするところだった。

「考え事してたら千切りしすぎちゃった…」

付け合わせのつもりだったからちょっとでよかったのに。どうしようか悩む私の隣で精市くんが足下の棚を漁り出した。お目当ての物を見つけたらしい精市くんがあったあったと言いながら取り出したのはホットプレートだった。

「今夜はお好み焼きしようよ」

ふわりと笑う精市くん。突如吹き出す冷や汗。「あ、はい」と返した私に精市くんがどうしたのと首を傾げた。
「セッティングしちゃうね」とホットプレート一緒に精市くんがキッチンから出て行く。たらり、頬から首に汗が流れた気がした。実際には流れてないけど、イメージだ。イメージとしてはダラダラと顔から汗が滴っている感じ。
え?あれ?えぇ…?なんか今日の精市くん、なんか、糖度高くない?普段が梅干しなら今日はキャラメルじゃない?
精市くんってこんな優しかったっけもっと世界を脅かす大魔王みたいな人じゃないっけ。いや大魔王だったらそんな彼を好きって私どんだけMなの。

お好み焼きの準備をしながら普段の精市くんのことを思い出してみる。ああだめだ好き。



(思い出すだけで照れる)
記憶美化