走る | ナノ
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・・・・・ 61・・

コートの数に合わせ、メンバーを3つのグループに分ける。何のひねりもないけど、手塚チームと跡部チームと幸村チームが出来上り、チームごとでミーティングを行う。メンバーは毎日変わるらしい。こんがらがりそうだ…。
私たちマネージャーは跡部から大まかな作業を聞き、そこで初めて氷帝のマネージャーの子と対面した。
聞けば本来は滝くんが来るはずだったけれど急きょ来られなくなってしまったので(どうりで見かけなかったわけだ…)、2年生の平部員を連れてきたということだった。そういや氷帝のマネージャーって正レギュラーの専属トレーナーくらいしかいなかった気がする。
でもよかったちゃんとテニスのルールも解ってるし、仕事も解る人がいるのは心強い。

「みょうじ なまえです、よろしくお願いします」
「中尾 良太ですよろしくお願いします」

深々と頭を下げられて、逆にこちらが恐縮してしまう。足を引っ張らないように頑張りますと大きな声で言う中尾くんに困っていたら跡部が助け舟を出してくれた。

「中尾、こいつはテニス素人だからな、マネージャーとしても素人だが」
「えっ!?」
「そうなの、だから逆に私が足を引っ張ってしまうかもだから、そんなかしこまらないで…むしろ何でも言ってくれていいから」
「厳しくしごいてやれ」
「う、お手柔らかにお願いします」
「任せてください!」

きょとんとした顔でこっちを見ていた中尾くんが大きく頷いて返事する。元気な子だ。

「俺はコートに戻るが…なまえ」
「なに?」
「試合中のコートにはあまり近づくな。ボールが当たってお前に怪我でもされちゃ困るからな」
「うん、わかった」
「それから、人手がいる時は声かけろよ」
「はーい」

今回はマネージャーもサポートする人数もそもそも足りないので、タイムを計ったりスコアをつけたりするのは、私たちか手の空いた誰かがすることになった。球拾いは極力控えろと言われ不服ながら了承する。私が出来る仕事が一つ減ってしまったことが地味にショックだった。
跡部が皆の元へ戻ったので、中尾くんとドリンク作りに入ることにした。

「それじゃ洗濯機のところまで一緒にいこっか」
「え、何で洗濯場に?」

不思議そうに首を傾げた中尾くんが、ドリンク作るんですよね?と聞き返してくる。

「洗濯場にボトル用意してるんだ」
「ああ」

本当はあらかじめ持ってきておきたかったけど、時間がたりなかった。効率の悪い自分にイライラしそう。
洗濯機の上にはタオルも準備してあったしついでに運びたいところだけど、2人だけで足りるだろうか。中尾くんの細腕と自分の頼りない腕を見て不安になってきた。

「みょうじさんって」
「ん?」
「跡部部長に大事にされてるんですね」
「んー、そうかな?」
「元々氷帝だったんですよね、付き合ってたとかですか?」
「跡部と?ないない!」

まさかそんな風に見えてたなんて、勢いよく首を振って否定する。

「跡部って気に入った人にはとことん甘いんだよね」
「あぁだから、」
「あっ私のことじゃなくて、ジローのことね!」
「芥川先輩ですか?」
「そうそう、ジローのこと好きだから私にも目をかけてくれてる、みたいな。まあ普通に仲良しだけど」

ジローが私のことを大事にしてくれるから、跡部も私を気にしてくれる。勿論それだけで仲がいいというわけでもないけれど。
だから特別扱いされてるわけじゃないと説明すると納得したように頷いてくれた。
そんなことを話してたら洗濯場に着いていた。用意していた籠を中尾くんが軽々と持ち上げる。さっきは細腕で心配だとか思ってすみませんでした私より何十倍も働いてくれそうです。
洗濯機の上に備え付けてある棚に綺麗に畳まれているタオルを持って水道へ戻る。

「みょうじさん、向こうでスコア付けしてきていいですか」
「うん、じゃあ出来上がってる文のドリンクとタオル一緒に持ってってもらっていい?」
「解りました」

とりあえず出来上がっている1チーム分のボトルとタオルを籠に入れて持たせる。スコアの付け方もルールも曖昧と違って仕事出来て頼もしいなあ。ありがとう中尾くん!君がいてくれてよかったです本当に!

「どこに持ってく?」
「手塚チームが試合してて、他は基礎練してたんで手塚さんの所行きます」
「おっけー」

中尾くんを見送って残りのボトルにも中身を注いでいく。やっぱ一人で作業するのって大変だ…中尾くんの有難み半端ない。
倉庫から適当に空いてる籠を2つ引っ張り出し、それぞれに8人分のボトルとタオルを詰めてコートへ運ぶ。
手塚くんがいるコートの方を見るとジローと海堂くんがちょうど試合をしているところだった。スコア付けをしてくると言っていた中尾くんが一生懸命動き回っているのが目に止まる。中尾くん頑張れ。おっと選手たちも応援せねば。
一番奥のコートに着いてすぐ精市くんが気付いてくれて、籠をベンチに置いてくれた。

「なまえさん、お疲れ様」
「うん、精市くんも」
「無理してないかい?」
「まだ始まったばっかりだよ?それに中尾くんのお陰でむしろ楽させてもらってるくらい」
「それならいいんだけど」

ドリンクありがとう。お礼を言いながら精市くんがボトルを1本取り出す。

「じゃあ、私跡部のコートにも持ってかなくちゃいけないからもう行くね!」
「日差しが強いからなまえさんもちゃんと水分補給しなきゃだめだよ」
「うん、それじゃ練習頑張って!」
「俺だけ応援してもらっちゃっていいのかな?」

ふふ、なんて笑う精市くんに眩暈がした。精市くんが眩しすぎて直視できない…!後ろに太陽があるせいだけではない気がする。

「そうじゃ、幸村ばっか応援してもらって不公平じゃろ」
「わ、仁王くん」

仁王くんが襟元で頬の汗を拭いながら立っていた。さっきまでフラフラしてたのにめっちゃ元気にしてるじゃん、よかった。
仁王くんにタオルとボトルを差し出す。ドリンクを飲みながら「樺地もやるの」と言っているのがばっちり耳に届いた。仁王くんの相手って樺地くんだったんだ。いつも跡部と一緒にいるからてっきり今回も跡部チームなんだと思ってた。でも合宿だもんね、跡部の面倒なんて見てる場合じゃないよね!

「応援も立派なマネージャーの仕事ぜよ」
「モチベーションに繋がるしね」
「そ、そっか…」

それなら精市くんだけ応援するのはただの贔屓になっちゃうかな。

「頑張れって言われたらもっと頑張れるんじゃがの」
「真面目に練習に取り組めるように俺が応援しよっか?」
「あ、大丈夫です」
「そう?遠慮しなくていいのに」
「気持ちだけ受け取っておきます」
「それは残念だなあ」
「…(仁王くんが敬語だ)」



(「みんな頑張って!」)
さて次だ