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・・・・・ 60・・ 「まさかなまえが合宿に参加するなんて思わなかったC」 「来るなら言えよな!」 「岳人だって立海と合宿なんて言わなかったじゃん」 跡部の無駄に偉そうな挨拶の後、各校の部長から今回の合宿の方針や大まかなスケジュールを受け、マネージャーの紹介はさっき氷帝以外が揃ってる場でしたから改めて挨拶をすることもなく、今は部屋割りをどうするかを話合っていた。 岳人が3人相部屋にしよーぜなんて言ってるが、マネージャーと選手は別々に決まっている。マネージャーは私と氷帝の子だけだから部屋割りは関係ないんだけど。そもそも男女で同室が許されるわけなかろう。岳人やジローは気にしないのかもしれないけど、こう見えて私もお年頃なのだ。 「久しぶりだな」 「あ、鳳くん…と宍戸!」 「オイオイ、俺はついでか、って前もなんかこのやりとりしたな」 「なまえ先輩!お久しぶりです」 鳳くんの笑顔にはセラピー効果でもあるのかとっても癒される…。久々だから余計に。宍戸は、まあ相変わらずだ。 「まさかなまえ先輩とこんな所で会うとは思いませんでした」 「びっくりしたぜ!」 「はは、自分でも驚いてるから」 本日何度か繰り返した会話を宍戸達ともした後に、「久しぶりやなぁ」と独特のイントネーションの丸眼鏡が話かけてきた。その隣には鳳くんと同じ2年生の日吉くんがいる。 「…えーっと、」 「まさか忘れてもうたん?」 「誰だっけ?」 「あなたの、忍足侑士です」 髪をかき上げながらどや顔決めてくる目の前の丸眼鏡に目つぶししてやりたくなったが我慢する。 「日吉くん久しぶり、よろしくね」 「お久しぶりです」 「何や、俺のこと嫌いなん?」 俺はこんなに好いてるのに。憂いを帯びた目で見つめてくるが、どの口が言うんだどの口が。 「嫌いじゃないよ、好きじゃないだけで…」 「まだ根に持っとるん?俺が岳人を取ったこと」 「めんどくせ…」 「久々に会うたんにこの扱い…」 「俺は忍足と同類なのかよ!」 「宍戸さん元気出してください」 「お前俺のこと大好きだもんな」 両手を頭の後ろで組んだ岳人が言う。2度目だが、一体どの口が言うんだ。 「向日先輩もなまえ先輩のこと好きだから両想いですね」 「好きじゃねーって!」 「鳳くん、私は岳人なんて好きじゃないからね!」 解ってるのか解ってないのかニコニコしながら鳳くんはそうなんですか?と聞いてくる。あ、これもしかしなくてもわざとだ。私ら2人してからかわれてるわ。 「俺丸井くんと部屋一緒になったけど皆決まった?」 いつの間に会話の輪から抜けていたのか、ジローはいつの間にか丸井くんとの相部屋チケットをゲットしてきていた。そうだよね、せっかく違う学校との合宿だしね。 「あー、俺あんま気使いたくねぇから侑士と同じでいーや」 「皆して俺の扱いひどない?」 「気のせいだろ?」 「そういう名のもとに生まれたんじゃない?」 「絶対気のせいやないわ」 無事に部屋割りも決まり(結局ほとんど同じ学校同士での部屋割りになってたけど)、施設内の案内もかねてまずは荷物を部屋に運ぶことになった。氷帝の何人かは何度かここに来たことがあるので迷う事もないだろう。氷帝の3年組が何人かのグループに分かれ案内することになった。 一旦部屋へ行き、それから1時間後にコートに集合することになっていて、1時間の間でこの施設内の間取りを把握してもらうことになっている。 「1時間もあればなんとかなるかな」 今回は跡部が個人で企画した合宿だから使用人は呼んでいないということで(本当に意味が解らない何でだよ)、この数日間の家事全般は私と氷帝のマネージャーの子ですることになっている。いくら何度か来ているといっても使用人の誰かがいる時にしか来ていないのだ。キッチンの場所に洗濯機がある場所までは把握してない。跡部からもらった地図を頼りにキッチンがある部屋を目指す。 キッチンも洗濯する場所もあまり離れてなくてよかった。コートからもそんなに離れていないし、このめちゃくちゃ広い城の中(城じゃないけど)を走り回らなくて済むのは有難い。ただ唯一寝室まで遠いのが難点だわ。 食材の確認と調理器具の把握を手短に済ませる。さすが一流シェフが使っている物というか、見たことない珍しい調理器具が数多く並んでいた。興味わくけど、今はそこに時間を割いている時間はないのだ。一通りキッチンや食堂の中を見て回り、次は洗濯だ。 「洗濯機めっちゃあるじゃん」 これならあの人数の洗濯物も早く済ませられそう。向かいには乾燥機も設置してあるし助かる。 時間を確認すると集合時間まであと30分。急いでジャージに着替えてコートへ向かう。最後に備品の場所を見ておきたかった。いざ練習が始まって何がどこにあるか解らなくて選手達に迷惑をかけることだけはしたくない。 集合時間20分前、まだ誰もコートには着いていない。コートのそばに小さな倉庫があり、その前には水道がある。使い勝手のいいこと…。 この辺の場所までは頭に入っていた。跡部から預かった鍵で倉庫の中に入る。埃っぽい空気に顔を顰めつつテニスボールが入った籠を探す。探すまでもなく入り口付近にあったんだけど。 3つあるコートにそれぞれ籠を運び、時間を確認すると集合時間まで10分を切っていた。 ちらほらと集まりだすメンバーに思ったよりも時間がかかってしまったけれど、何とか間に合ったと安堵する。額の汗を拭ったところでハッとあることを忘れていたことに気付く。 急いで日陰に入り首にかけたタオルでもう一度汗を拭う。あれこれしないと、と考えていたらうっかり忘れてしまった。今はこんなに日差しが強い夏なのだ。紫外線は乙女の天敵である。まさか日焼け止めを塗り忘れるとは。 この1時間の疲れを体の中から追い出すように息を吐き、日焼け止めを塗りたくった。今から塗ってもちょっと手遅れな気もするけど。浴びた紫外線をなかったことには出来ないからね!天気がいいのは気持ちいいけど焼きたくないな! 「よう」 「なんだか朝ぶりじゃな」 集合の号令がかかるまで木陰で休んでいたらジャージに着替えた丸井くんと仁王くんが近づいてきた。仁王くんは早くも暑さにやられてぐったりしている気がするが、ちゃんと練習に参加できるんだろうか…。 「こんなとこで何してんだよぃ」 「集合時間まで涼んでたんだ。あ、二人とも日焼け止め塗った?」 「塗ってない」 「どーせ汗かくし意味なくね?」 すでに汗ばんでますとでも言うように丸井くんが襟元をバタつかせた。仁王くんなんて今にも倒れそうだよ。 「でも一応塗っておいた方がいいよ」 はい、と持っていた日焼け止めを丸井くんに手渡すと、めんどくせーと言いつつ渋々塗ってくれた。スプレータイプじゃねえのかよなんて声が聞こえてきたが聞こえないふりをしておこう。 「仁王くんなんて色白なんだから余計目立つよ」 「ああすぐ赤くなるもんな」 お前も塗っとけよと日焼け止めが丸井くんから仁王くんの手へ渡り、それを数秒考えるように見つめてから、私の元に返ってきた。 「え、」 「塗って」 「はあ?甘えんなよ」 「しょーがないな…」 「みょうじも甘やかすなよ」 「あ、そうだ丸井くん手出して?」 「え、なんかくれんの!?」 ぱあっと目を輝かせた丸井くんは素直に両手を出してくる。その上に日焼け止めを多めに垂らすと丸井くんの顔が固まったがスルーして自分の手の上にも液を出した。 「じゃあ丸井くんは腕と足係ね」 「え、まじ…?」 「では、失礼します」 「至れり尽くせりじゃな」 「仁王お前覚えとけよ…!」 両手に広げた液体を仁王くんの顔に塗っていく。え、何この人サラサラなんですけどツルツルなんですけど信じられない…。てか汗かいてなくない?仁王くんてもしかして人造人間? 「何で俺が仁王の腕に日焼け止めなんて…」 「ブンちゃんもっと優しく頼む」 「うるせーよ」 「皮はげそう」 「知らねーよ!」 ぶつくさと不満を口にしながらもちゃんと面倒見てあげる丸井くんのお兄ちゃんぶりにはいつも感動する。「面倒みいいよね」と言えば丸井くんは眉間に縦皺を作りながら「こんなデケー奴の面倒みたくねぇよ」と悪態を吐いた。ははは。 「いやぁーもじゃもじゃしてるぅーうえー」 「そんな毛深くないと思うんじゃけど…」 「女子の足なら喜んで塗るってのに、何が悲しくて毛だらけの男の足なんて…」 仁王くんの足を乱暴にこすりながら、丸井くんが私の足に目を向け大きく肩を上下させて長い息を吐いた。 「ブンちゃんのむっつりすけべ」 「仁王くんの裏声とか聞きたくないですね」 「…………」 「いッ、た!」 仁王くんのすね毛を容赦なく引き抜いた丸井くんに、涙目になりながら謝っている。仁王くんが丸井くんに謝るなんて…! 「成長したねえ、マサハル」 「おばーちゃんかよぃ」 「せめてお母さんでお願いします」 「ばーちゃん、マサハル小遣いほしいナリ」 「甘ったれたこと言ってんじゃないのォもォォ!」 「え、何それ誰?」 「それはそーと」丸井くんが思い出したように話題を変えた。仁王くんは痛みが引かないのか脛をさすっている。ご愁傷さまです。 「氷帝とばっかつるんでんじゃん」 俺らのこと忘れてんなよ、言いながら丸井くんはどこか嬉しそうに笑う。 「みょうじって氷帝ではあんな感じなんじゃな」 「そんな違う?」 「俺らの前以上に素の顔出しとる」 なんだか照れくさくて両手で頬を覆う。よかったな、仁王くんが言いながら頭をくしゃくしゃと撫でてきた。また切原くんとお揃いになっちゃうからやめてください。 でも氷帝の皆がいてくれてよかった。ほとんど初対面の状態で臨む合宿ならもっと緊張していたし、ここが来たことのない場所だったらもっとやりずらさを感じていただろう。もし氷帝が合宿に参加しないならそもそもマネージャーなんて引き受けなかったかもしれない。……いや、精市くんに頼まれて断れた自信もないけど。やっぱどっち道マネージャーは引き受けたかもしれない。 「あーあー妬けるねー」 「氷帝にうちのアイドル持ってかれたのう」 「ねえそのネタさ!」 「バカ仁王そのネタ禁句!」 「口が滑ったナリ」 「おっ、跡部が集合かけてる!じゃあみょうじまたな!マネージャー頑張れよ」 「あんま無理したらいかんぜよ」 「ちょっと誤魔化さないでください!」 二人は逃げるように皆の元へ走って行った。まあ私も同じところに行くんだけどね!置いてかないでほしいですね! (この青い日々に題名を) 合宿開始 |