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・・・・・ 51・・ 「そろそろかなぁ」 読みかけの文庫本を閉じて時間を確認すると、ちょうど精市君の部活が終わると言っていた時間だった。 文庫本を鞄にしまい、んーっと背中を伸ばす。続きは寝る前に読もうかな。残りのページもあと10ページくらいだし、読み終わるかな。 最後の展開を予想しながら、精市君から指定された待ち合わせの公園へと向かう。 別に裏門とかでいいんじゃないかな、と思ったのだけど精市君からするとあまり二人で帰るところを見られたくないようだ。この前見学したテニス部の試合光景を思い出す。精市君をはじめとするテニス部レギュラー陣の人気というものを目の当たりにしてしまうと、精市君が私を学校で避けているのも納得だ。彼の気遣いが身に染みる思いです本当に。本当に今更って感じだけど。現実味を帯びた感じってゆーの?あんな強烈なギャラリー見ちゃったら、誰だって恐縮しちゃうよね。 もしも精市君のファンの子に、私と精市君がまさか同じ屋根の下で暮らしてるなんて知られたら………。考えただけで恐ろしい。精市君の黒い笑顔よりも怖いかもしれないな。 ああ、そういえば仁王君のファンの子たちに呼び出されたこともあったっけ…忘れてたけどあの時は怖かった。その時も精市君が助けてくれたなあ。精市君って怖い時とか意地悪な時とか怖い時あるけど、なんだかんだ気にかけてくれて優しい、かも。 「へっ?!」 しみじみと精市君の有難さを再確認していたら、下げていた顔が急に上へと何かによって持ち上げられる。突然のことに心臓が跳ね上がった。 「ねえ、」 公園のベンチに座って、考え込んでいたらしい。私の顎を持ち上げたのはどうやら精市君の指だったようだ。無理やり上を向かせた精市君は不服そうな顔で私を見下ろしていた。精市君がまっすぐ私を見つめている。見つめ返して数秒、ようやく心臓が落ち着いた。 ――いつから目の前に立ってたんだろ…全然気づかなかった ―― ていうか、これって、顎クイってやつじゃない?そう気づいた途端に再び心臓が今度は驚いた時とは違う跳ね方をする。 「さっきから呼んでるんですけど?」 「ご、ごめん…なさい…」 えっ、あれ、……あれ? うそ、なんでっ!? 耳がものすごいはやさで熱くなっているのがわかる。たぶん、顔も赤くなってるはず。 精市君はそんな私を見下ろしながら首をかしげた。 「急に顔赤くして、どうしたの?」 手はまだ私から離れていない。精市君の手に私の熱が移っちゃうかも…! 「な、何のためらいもなく!」 「ん?」 「女の子の顔を触っちゃダメ!」 「なんで?」 「照れるから!」 いまだに顎に添えられている精市君の手から顔を思い切り逸らして逃げ出す。 まさか、精市君のことを考えてたなんて、言えるわけない!! 早く、顔の、熱、冷めて!お願い! 「なんで?」 「なんで!?」 何で なんでって訊くの!?意地悪だ、やっぱり精市君は意地悪だ!わかるでしょ!むしろここはわかってほしい、言わなくてもわかってもらいたかったよ! 「精市君は、男の子」 「そうだけど」 「私は、女の子!」 「そうだっけ?」 「そうなんです!」 そうだっけ?いやいやいや、見ればわかるでしょ!女の子だよ私どこからどう見ても…た、たぶん…。男の子に見間違えられたことないし、たぶん大丈夫、女の子に見えてる、はず…。 もう一度確認させるように、精市君を指しながら「精市くんは、男の子」、今度は私自身にを指をさしながら「私、女の子!」、最後にわかった?と聞けば 精市君はふーん、と本当に分かってくれたのか分かってないのか、わからない返しをしてきた。 「そうなんだ」 精市君は何故かにっこり笑って。そう一言返した。そうなんだ?そうなんだって、なにが? 「ほんとに意味分かってるのかな…」 「今度から気を付けるよ」 「…そうしてください」 「いつもは何も言ってこないのにね?」 「え、」 「抓るのはOKってことかな」 「NGです!ビッグNG!!」 精市君が意地悪な返事しかしないから、こっちはどんどんヒートアップしていく。 なんで精市君そんなに機嫌よさそうなんだろ?! こんなに、こんなにっ!必死になってる私とは対照的に、精市君はニコニコしてすんっごい余裕そう。くやしい!私いっつも精市君に言い負かされてるし、からかわれてばっかりだ…。人の事を転がすのが上手い仁王君にでも弟子入りしてやろうかな…。 「ほら、ぼけっとしてると置いてくよ」 「い、いつか言い負かす…!」 「何か言ったー?」 「なんっにも、言ってません!」 (そんなわけないよね?) まさかね |