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・・・・・ 50・・ 同じ学校に通っていて同じ学年なのだから校内で出くわすというのはそうそう難しいことではないというのが私の考えである。 別のクラスのたとえばジャッカル君とか、宮城さんに会おうと思えば割りと簡単に出会えたりする。 クラスが違えど校内で出くわすというのは日常的かつ至極簡単なことだと思っているのだが、何故か精市君と校内で会うことは極めて少ない。それは彼が故意に私を避けているせいかもしれないが。彼こそが私の中の例外なのだ。 まあつまり何が言いたいのかというと、珍しくこの数時間に私と精市君が2度も校内で会うというのは極めて珍しいということ。 「あ、」 「よお、結局来たのな」 「教室誰もいないんだもん、仁王君は居たけど寝てるし」 丸井君が持っていたパックジュースを持ち上げて私を呼ぶ。その隣に精市君が立っている。察するに丸井君とこれからランチするところだったのですね。と思えばそうではないらしくたまたま会った二人がたまたま話していたところにたまたま私が来たということだった。 「今日はよく会うね」 「さっきは精市君が会いに来たんだよ」 「その言い方なんかむかつくね」 「横暴だ‥‥」 丸井君に座れと促されたので隣の席にお邪魔させてもらう。向かいには精市君。なんだか珍しい図だなあ。 なんて考えていたら精市君が立ち上がった。手には私が今朝愛情を注いで作った(このくだりもういらないかな?)お弁当を持っている。あ、なんか嬉しいかも。 「じゃあ俺もう行くから」 「おーじゃあまた部活で!」 「じゃあまた…えっと…後で?」 「何で疑問系?」 そのまま精市君が座るところまで見守ってみる。あ、あれは確か柳さんと真田さん。 この前仁王君の誘いでテニス部の練習試合を見たときにレギュラー陣の名前と顔は大体覚えてしまった。 「食堂来るのに何で俺を誘ってくれないんじゃ」 「あ、仁王君!おはよ」 「何だ仁王も来たのかよい」 「喋り終わった後普通声かけるじゃろ」 「それどころじゃなかったんだ、よ‥ごめんね?」 そうだ、それどころじゃないんだった! ガタと勢いよく席を立つと丸井君が驚いたように目を開いた。 「私 精市君に言いたいことあったんだった!」 ちょっと行って来る。そう二人に告げて数十メートル先の精市君たちが座っているテーブルへ向かう。 珍しく学校で会えたのに、うっかりしてた。精市君に聞きたいことがあったんだよ。そうだよそうそう。折角近くにいるんだから今聞かなきゃいつ聞くの。今でしょ!‥もう古いか。 「やっぱ俺最近よくスルーされとる?」 「警戒されてんじゃねーの?」 「されるようなことした覚えないナリ」 「言動だよ言動」 「俺のキャラ付けかの…」 「つか仁王飯何?」 「カロリーメイトとウイダー」 「何だその組み合わせ」 *** 「精市君!」 3人が談笑している中に割って入るのは気が引けたけど、話しかけないことには始まらないので勇気を出して声をかける。そこまではいい。 いいけど私が精市君を呼んだことで、周りにいた柳さんと真田さんまでこっちを見てきた。そりゃいきなり声をかけられたら見るよね。うう気まずい。 「どうしたの」 「ごめん、あのお邪魔して…すみません」 「いや構わない。俺達は席を外したほうがいいか?」 そう返してきたのは、柳さん。向こうは私のことをおそらく知らないだろうし、馴れ馴れしく柳さんと呼んでいいのだろうか。直接自己紹介されたわけでもないのに。苗字にさん付け以上の馴れ馴れしくない呼び方が思いつかないのだから仕方ない。 「あ、いえそんな大したことじゃないのでお構いなく…」 そう返せば柳さんはそうかと一言告げて食事を再開した。真田さんは終始食事に夢中だった。夢中というと語弊が生じるかもしれないが、きっと私が精市君に用があるのだから自分には関係ないことだと敢えて黙っていてくれているのだ。そういうことにしておこう。 「今日のことなんだけど…」 精市君に向き直り、今日のこと、そう私が口にすると精市君が横目で柳さんのほうを一度見てから迷う素振りを見せた。 あ、もしかしてこの二人に私が幸村家に居候してるって言ってないのかも。だとしたら私と精市君が一緒に住んでると知れるような会話は彼としては避けたいはず。それはきっと私のためでもあるはず‥自分の行動が軽率だったことに今更気付くなんて。 彼の迷う素振りを見て私も迷うように声を詰まらせると、精市君はまあいいかというようにちょっとだけあきらめたような表情をして肩をすくめた。うわあ私のせいだ私のせいだ。どうやって回避しよう自分ほんと馬鹿だ! ここから精市君を引っ張り出そうか。いやでも柳さんに声をかけられたときに大した話しじゃないって答えてしまったから今更不自然すぎる‥。大した話しだったって何であの時気付かないかなあもう! 「ゆんちゃんのことなんだけど」 「悠がどうしたの?」 「今日お友達のとこに行くってさっきうちのクラスまで来て…」 そこまで言うとこれ以上の言葉を出させないように、「そうか」と一言返された。そうかってあなたそうかって一言って…。 「えーと、大丈夫?」 「何が」 「ゆんちゃんが」 「大丈夫でしょ、俺があとで話しとくよ」 それでいいでしょとでも言いたげな目でこちらを見てくるので、それ以上の言葉が見つけられなかった。彼が会話終了というような顔で私を見ているのだから、言葉を見つける意味なんてないのかもしれないけれど。 まあ、精市君が悠ちゃんと直接話すって言ってるんだから大丈夫か。 いやその前に私は歩弓さんに連絡するべきだったのか? (ケセラセラって感じで) わからん |