走る | ナノ
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・・・・・ 46・・


「誰すか今の…もしかして先輩たちのファン?」
「別になんだっていいだろぃ」
「ミーハーな女ばっか相手にしてるとめんどいことになりますよ?」
「そんなんじゃねえよ」
「むしろ俺らがアイツのファンじゃからのぉ」
「え、あの人モデルかなんかなんスか?」
「お前知らねーの?」
「時代遅れはモテんなり」
「うっ……ど、どっかで見た顔ではあるんですけど…」
「へー、赤也知らねーんだ」
「遅れてるのう」
「どっかの雑誌で見たことあるんスけど…名前覚えてないんですよ!」
「…赤也…嘘つきは泥棒の始まりぜよ」
「えっ?」
「あいつは、俺と仁王とジャッカルと宮城のアイドルなまえちゃんってーの」
「芸能人とかじゃねーの、俺らのクラスメイトなり」
「なっ、!そんなん俺が知るわけないじゃないスか!」
「どっかの雑誌で、ねェ?」
「見栄ばっかはってっと、墓穴ほるぜぃ?」
「赤也はもう泥棒じゃな」
「そんなん言うなら仁王先輩は窃盗犯じゃないスか!」
「嘘は吐いてない、適当に誤魔化してるだけじゃろうが」
「それが嘘っ!」
「こらお前ら!いつまで喋っているつもりだ、さっさと並ばんか!」

**




目の前で繰り広げられている試合に思わず感嘆の声がもれる。応援もすごいけど選手たちのレベルもすごいのが解る。ジローや岳人達の試合はずっと見てきたけど、立海の試合って2人のものとは全然違うような気がする。すごいすごいとはしゃぐ私を横目に宮城さんが「丸井たち全然本気出してないじゃん」つぶやく。こんなにはっきりと実力の差が出る試合になるなんて。跡部と平部員の試合を思い出してしまった。

「今試合してるのが、切原って2年と柳っていう奴ね」
「ほう…宮城さん詳しいね」
「この学校でテニス部レギュラー知らない奴はいないの」
「ふぅん…」
「氷帝の跡部を全校生徒知ってるのと同じね」
「はは、跡部は生徒会長だからねそりゃ皆知ってるよ」

柳と差された人を見る。あの人が柳さんなのね。度々会話の中に出てくる柳さんを初めて拝むことができた。それからしばらくして2人の試合が終わる。仁王君と柳生君も丸井君とそれからジャッカル君の試合はもう終わってしまったからあと直接知ってる人と言えば精市君の試合しかない。

「お、出てきた。幸村の隣に居るのが真田って奴」
「えっあの風優記委員の人が真田さんなの」

確か前に、丸井君たちがたるんどるたるんどる騒いでいた彼が真田さんだったとは。てかたまに校門の前に立ってる風紀委員のあの人が真田さんだったなんて。まったく知らなかった。そう宮城さんを見ながら言えば、信じられないという顔をされてしまった。それくらいに真田さんは有名な人らしい。そりゃあ風紀員の顔は皆覚えてるだろうし名前だって知ってて当然かもしれない…。

「違うから、風紀員ってよりテニス部の真田の方がイメージ強いから」
「王者だもんねぇ」
「何でこんなにテニス部に関わりがあるのに真田のこと知らないの」
「幼馴染の2人もテニス部なんだけどねえ。テニス部自体には縁がないんだよね。うんうん」
「テニス部にめっちゃ縁あるように見えるんだけど」
「テニス部ってなんなんだろうね?」
「あんたがなんなんだろうね、だよ」

「よっ」頭上に振ってきた声に顔を上げると、自分の出番が終わった仁王君が私たちの前に立っていた。宮城さんが仁王君を睨みつけながら「選手がこんなとこに何の用なの」とうなる。仁王君は怖いのうと笑って交わした。仁王君って流すのがうまいなとつくづく思うのだけど私だけだろうか。

「なに、なまえに忠告しとかんといかんことを思い出しての」
「忠告?」
「いいか、」

顔の前に仁王君の人差し指が突き出される。ごくりと唾を飲んでうなづいて見せると、仁王君は話を続けた。

「幸村に何で見に来たとか聞かれたら…」
「仁王君たちに誘われたから…」
「そんなん言うたらお前今夜あいつに絶対泣かされるぜよ」
「なっ?!え、何で!?」
「ちょ、なまえって幸村とそういう関係なの?」
「ち、ちちがうよ!どどどんな関係でもないよ!」
「…で、心当たりないのか?」
「なんの…?」
「……俺には気をつけろとか言われなかったか?」
「…………あ…!」
「まあそれは別にええんじゃけど」
「いいのかよ」
「とりあえず幸村に何か聞かれたら、精市君のテニスしてるかっこいいトコロ見に来たんだぁきゃは…って言うんじゃぞ」
「そんなこと言ったら私が死にそうだよ!」
「大丈夫じゃ幸村をそれで封印することができるぜよ」
「何で?!てか恥ずかしすぎてそんなこと言えないよきゃはっ」
「きゃは、は言えるのね。てか仁王ほんとキモイ…残念すぎるわ」

まあ頑張れよ、そう言い残して仁王君はコートの方へ戻って行ってしまった。ええええ、こんな中途半端な状況を残して去ってくとか!
でも精市君に仁王君には気をつけろと言われたのは事実だし。精市君にそう言われて仁王君との距離を取ったりはしなかったけど。それでも精市君は私のことを思ってわざわざ忠告してくれたわけだし、その忠告を無視して誘いに応じてしまったとなったらあまりいい気はしないかもしれない。そうして彼の機嫌を損ねてしまったらきっと私に明日はないだろう。うああああ精市君が私の存在に気付いてないことを祈るしかない。

「やっぱ部長コンビ強いねぇ…」

宮城さんの声を聞きながらコートを見ると、相手を圧倒的な力の差で抑えてる精市君と真田君の姿があった。差がありすぎるのか、2対1にも見える。てか精市君動いてなくない?え、微笑んでるだけじゃね?
幸村君かっこいー素敵―頑張ってー!の声援が聞こえてくるんだけど、頑張ってるの真田君だけじゃね?ていうか真田君って知り合いでもないのに君付けでちょっと馴れ馴れしいかもしれない。まあ直接話す機会はそうそうないだろうし影で君付けするくらいいいか。ってそこはどうでもよくて…皆が応援してる幸村君はやっぱり微笑みながらそこに佇んでるだけくね?
たまに打ち返してるだけじゃね?その場からあんま動いてないんだけど…

「かっこ、いい…のか…?」


(動いてはいるのだけど)
直立不動