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・・・・・ 40・・ 思い通りにならない、そう思うのは日常何度もあることだし仕方ないで済ませるのが大体だけど。思い通りにならない、気に食わない、むかつくそう思ってしまうこともある。ある事情を挟んだ時は大体そう思って何がなんでも自分の思い通りにしてやりたくなる。まあ今回も例外じゃなく――― がちゃり、突然ドアが開く。まあ別に困るわけではないので普通にドアを開けた人物を見る。妹か母かと思いきやまさかのなまえさんがその人物で、その事に対して少し驚いてから冷静に彼女のことについて考える。当の彼女も中に人が入っていたとは思っていなかったのか一瞬驚いた顔をした後冷静に「あ、ごめんね入ってるって気付かなくて」と謝ったあとさも何事もなかったように出て行こうとした。え、なにそれ? なまえさんはもっと、慌てる人だと思ってたのに。彼女のその反応が気に食わなかった。平然としている彼女に、むかついた。彼女が俺の思い通りにならない時は大抵こうだ。どんな意地悪しても自分の思い通りにしてやりたくなる。もしかしたら俺は彼女に純であってほしかったのかもしれない。もっと、もっと純な子であって欲しいと望んだのかもしれない。馬鹿らしい。 ちなみにここは脱衣所であって俺は上を脱ぎ捨てていてあとは下を脱いでお風呂へゴーな状態でいてその途中過程に彼女がお風呂に入りにきたのかドアを開けて俺の機嫌を損ねている所だ。 彼女の反応が何度も言うように気に食わなかった俺は彼女の行く手を阻むように背中を包むように覆いかぶさってなまえさんの手の上からドアノブを掴む手を握った。彼女は「え」と小さい悲鳴なのか声をあげた。 「ご、めんって…精市くんが入ってるなんて知らなかったの」 「別に俺は怒ってるわけじゃないんだけど」 「怒ってるよ、その声…」 それくらい解る、そう続きそうな発言に驚いた。へえ。そこまで俺を理解するようになったんだ。俺の機嫌がほんの少し良くなったからこれからしようと予定していた意地悪の一つをなくしてあげることにした。俺ってば優しいなあ。 「じゃあ、どうして怒ってるの。私出てくから、手…離して」 「全部やだ」 「やだって…」 「怒ってないって言ってるじゃん。一緒にお風呂どうかなって思って引きとめてるだけだよ」 「何言ってるの、精市くん今日も意地悪」 「知ってる。でも意地悪じゃないよ、本気」 「(…大嘘つき……)」 なおも平然と俺を交わすなまえさんにイラついて思わずドアノブに伸びた手に力を込めてしまった。痛いよ、彼女の普通の反応もまた気に食わず。 「……なまえさん」 「なに」 「…こっち向いて」 「やだ」 「いいの?痛いことしちゃうよ」 そう脅せば彼女はおずおずと身体をこちら側に傾けたので掴んでいた手を開放してやった。 「…………」 「…………」 「……………」 「…、…なに」 身体から力が抜けてなまえさんの肩に寄りかかって体重をかける。なまえさんは今度こそ冷静に返せるわけなくて 「え」とか「あの」とか「ちょ」とか形になってない言葉を呟いていたけど正直どうでもよかった。それより俺の口元の歪み具合が大変なことになっている。 俺を見るその目に不安とか動揺とか映し出されてたとか、顔が真っ赤だったとか、やっぱ意地悪しすぎたななんて反省してみたりとか…俺の機嫌の悪さなんて吹き飛んだし。 「せ、い、精市くん!」 「はい?」 「はな、離れてよ!ばか!ああああああのね、意地悪しないでっていつも…」 「うん、ごめん」 「…(謝った?!急に、あの、精市くんが…っ?!)」 彼女の両頬を手のひらで包む。あ、あったかい。彼女の目は俺を映すなりきょろきょろと泳ぎ出した。面白い。最終的にきつく目を瞑ってしまったので仕方なく意地悪は終わりにして、おびえるようにぷるぷる震えながら顔を真っ赤にさせてるなまえさんの頬から手を退かした。 「相変わらず面白いな、なまえさん」 「わ、私は面白くないですから!」 「それは残念だな」 くすりと笑えばなまえさんが睨んできた。怒らせた?なんてまた意地悪なこと言いそうになったのでなまえさんから離れてそのまま風呂場に入って行けばなまえさんは膨らませた頬をしぼませてきょとんとした顔で俺を見た。 「その顔、戻ってから出ていきな」 そう言って扉を閉める。曇りガラスにはなまえさんのシルエットしかうつらない。彼女が今どんな表情をしているのかもう俺には解らない。彼女からもきっとそれは同じで、今俺がどんな顔をしてどんな目であの子の影を見ているかなんて解るはずがないんだ。 (彼女は女の子だった話) 目の前の |