走る | ナノ
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・・・・・ 3・・

いつもより早く学校に着いたせいもあって校庭や体育館から朝練に参加している部員達の声が聞こえてきた。 いきなりで着いていけなかったけど、もうすぐ、ここともお別れなんだよね。急にしんみりしてきた。
部活動に勤しんでいる友達の所まで行って、転校の話をしたのは朝練が終わる頃のことだった。吃驚している友達に、私も吃驚だよ、と話して。談笑して。「こうしちゃいられないっしょ!」「見送りパーティーしよー!」なんて話が発展するまでになった。
え、ちょ、パーティ?!

放課後、私の見送りパーティーが開かれるらしい。まだ何時になるのかわからないのに…。しんみりしないようにと気遣ってくれたのかもしれない。
2時間目の授業終了を告げるチャイムの後、「放課後、3−D主催によるみょうじなまえの送別会を行いたいと思いまーす! 3−Dでなくても結構!食べ物持って3−Dまでいらっしゃーい!」というめちゃくちゃなアナウンスには吃驚した。(軽く嫌がらせっぽい。なんていうか騒ぎすぎだ)
先生の注意する叫び声を途中に放送は途絶えた。なんてアホなんだ私の友人は。そんなとこも含めて好きなんだけど。とにかくいい奴。楽しい奴。今の放送にクラス中が湧いたのはいうまでもない。な、なんか嬉しいような寂しいような複雑な気分。
それからも彼等(彼女等)の暴走は続き、何人かが授業や休み時間を使ってコンビニでパーティーグッズや食べ物を調達してきたりと大賑わいだった。たかが私の送別会にやりすぎな気もしますが。何故か教師は黙認。もしくは軽く注意するだけだった。

放課後は本当にすごくて、なんていうか、1年生の子まできてくれて(知らない子だけど) ポッキーなんかを貰ったのはいい思い出だ。嬉しかった。しかもムースだよ。主催者とも言える岳人の 「どー?楽しんでるか?」 なんて聞いてきた時には泣きそうになった。なんでだ。ていうかまだ先なのに、なんで今日やるんだよ、バカ!早く行けって言ってるみたいじゃんか…!そう言えば岳人は慌てながら弁解した。本当は、ただちょっと、誤魔化したくて。寂しいのを隠したかったんだ。「ありがと」(ちょいと悪気のない嫌がらせっぽいけど)小さくそう言えば頭を撫でながらいいっていいって!と笑ってくれた。

「なまえがいなくなったらこのクラスも静かになるな!」
「岳人それどういう意味」
「それだけ、なまえが大事な存在ってことじゃない」
「じ、ジロー…岳人も…!」
「俺 ついでっぽいんだけど」
「なまえのアホっぽい声もきけなくなるよな!」
「素直に寂しいって言えば」

そう言えば岳人とジローは顔を見合わせて、苦笑いした。

「寂しいのはなまえでしょ?」
「う、こんな時に意地悪しないで」
「寂しいけどー。俺なまえのこと忘れねーし!」
「そーそー、会いたくなったらいつでも会えるC!」
泣きそうになって慌てて下を向くと岳人とジローの手のが肩に乗っかった。
「…うん」

「なまえ先輩!」
「鳳君…と宍戸」
「オイオイ、俺はついでか?」
「なんかさ…俺って宍戸と同じポジションかもしれない」
「大丈夫だよ。向日の方がランク上だよ…」
「そこ! 何の話してんだよ!」

「転校するって聞いて、あの、これ…」

鳳君が(私の事を覚えていてくれてたなんて感激だ)遠慮がちに差し出してきたのはモーツァルトの楽譜集だった。ごめん…私楽器とかやらないんだよね。でもきっと彼なりに考えてくれたものだから笑顔で受け取る。今度ピアノ引ける友達に弾いて貰おう。(自分が貰って嬉しいものをあげるという定義に従ったんだろう)

「ハッ、なまえがピアノなんて弾けるのかよ?」

私達の背後から無駄にかっこつけた声が(美声ともいうが、絶対に言ってやんない)響いた。跡部だ。
(あ、そうだ跡部に弾いて貰えばいいんじゃん)

「うるさいなあ。生徒会長様がわざわざ何しに来たの」
「俺様がわざわざ時間作ってやったんだ感謝しな」

何に感謝していいのかわからないが、とりあえず態度からして感謝の気持ちなんて生まれるわけなかった。

「ホラ」

そう言って差し出して来たのはゲーテの詩集だった。ゲーテの詩集なんて私読まないよ。鳳君からの贈り物の方がよっぽど使い道あるよこれ(鳳君と跡部に失礼だけど…)
どうせならミステリーとか恋愛系がよかったなあ…。跡部も自分が貰って嬉しいものの定義に従ったんだろう。ていうか寧ろ跡部、私のこと考えてないというか…多分これ跡部の私物だよね?
あげるものねえなあ、これでいっか、みたいなノリか?…ていうか鳳君もそんな感じ? ま、まあいきなりのことだったし。まあ、うん。仕方ないっちゃ仕方ないし、彼なりに考えてくれたものだし。

「ありがと」

跡部からの贈り物も笑顔で受け取って。(まあ読んでやろう)一人一人に(知らない子もいたけど)挨拶した。壮大な送別会だった。すごいよ私。ていうか岳人、と3−Dのみんな。

下校時間を過ぎるまで残っていた私たち(始まった時よりもだいぶ人数は減ったけど)気付けばもうすぐ8時を回ろうとしていた。流石に先生に怒られてしまった。
ジローと岳人と一緒に玄関に向かう途中、跡部が送ってくれると言ってくれた。サービスいいな。あれだけ騒いで先生達があまり言わなかったのはもしかしたら跡部のおかげなのかもしれない。さすが生徒会長だ。


(私は私の決断を信じる)
行きます