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・・・・・ 38・・ 貴重な昼休みの始まりをクラスの女子や教師陣に捕まったりで無駄に過ごしてしまった。 俺の昼はなまえさんが自分の弁当のついでに作ってくれているそうなので、今朝寝坊したなまえさんのおかげで今日の俺の昼はなくなってしまったのだ。彼女のほうはお弁当を作るどころか朝食すらまともに摂れなかったみたいだけど。 とりあえず昼がないので、食堂へ行こうと決め廊下に出た矢先、廊下の真ん中に人だかりができているのを見つけた。まあ俺としてはそんなものはどうでもいいし、あまり興味も沸かなかったので無視しようと早足でその塊を通り過ぎようとしたら、人だかりの中心になまえさんを発見。叱られて外に出されているような感じになってるなまえさんの周りにギャラリーが出来ていて、その横で一人ひとりに何やら注意している丸井の姿があった。 新しい遊びなのだろうか? 無視を決め込むつもりだったのだが、騒ぎの中心が見知った人物たちだったので思わず足を止めてしまった。 新手のイジメかな?と少し近づいてみると、なまえさんの机に貼られている紙に目が留まった。 「みょうじなまえを助けよう、食料募集…?」 何だそれ。なまえさん泣きそうなんだけど。3Bこれ確実にイジメだろ。嫌がらせでしょ。そして机の隅に小さな箱(上半分のないペットボトル)があって、その中には小銭が入っている。さしずめ見物料ってとこだろう。丸井のやつ何やってんだか…。 3Bの連中って本当どうしようもないな、なまえさんも含めて。 やれやれとため息をついて無視するはずだった人ごみを掻き分けてことの発端となっている二人の元まで近づいた。 「やあ丸井、面白いことしてるね」 「あ、幸村くん」 「なまえさんお昼はどうしたの?」 ことの流れをきいてみる。本当なまえさんもどうしようもない人だな。アホだろと、呆れたように目を細めなまえさんを見れば彼女は、大衆の前ということで縮められた身体を叱られた子供のようにさらに小さくした。見世物にされてるだけじゃない、しかも勝手に商売させられてるし…アホとしか言いようがないし表せないね。しかもこんな恥ずかしいことして収穫が一口サイズのものばっかでとてもお腹の足しになるとは思えない。 丸井も面白いこと思いつくよなあ、関心するね。 満足気に笑っている丸井を見ていたら、なんだか俺も面白いことをしてみたくなった。 ***** チャリン、ペットボトルの中に10円が投げ込まれる。精市くんはニコリといつものように綺麗な笑みを見せながら、「はい、チーズ」と携帯を構えた。どいつもこいつも薄情な人ばっかだな! はいチーズじゃないよ、チーズできないよ笑えないよ! 食べたいよチーズ! カシャと携帯のシャッター音が響く。周りの笑い声(得に女子)が一層大きくなる。その中には黄色い声まであがっている。どこがかっこいいの、どこが。 ただ嫌がらせしてるだけじゃんんんん!!薄情な男じゃんんん!! しかも精市くんのせいで注目度あがっちゃったし! 何でこんな時に限って宮城さんいないのぉ…! じわりと涙が目に浮かんできちゃうかもと思った。ちょっと目が潤っただけで涙が溜まるってほどじゃなかったけど。 チャリーンまた小銭と小銭がぶつかる音がする。半分くらい諦めた目で顔を上げてペットボトルの中を見ると、そこには10円玉の中でも輝いているものよりも、はるかに明るく光っている500円玉が一枚投げ込まれていた。え、500円って…え…? 「幸村くん50枚も撮るの?」 「そんなわけないだろ」 しらっと丸井くんの言葉を否定した彼は、いつもの(精市くんお得意の)儚さを含んだ綺麗な笑みを引っ張り出して、ぽかんとしていた私の手を取った。さらにぽかーん。 「この子、テイクアウトで」 「えっ」 「500円で足りるよね?」 「えっ、いや、まあ…」 「いいよね」 「お、おう…うん」 丸井くんの頬に冷や汗が浮かんで顔が青くなり始め、さっきまでの笑顔が引きつり出した。 「ほら、なまえさん立って」 「ちょ、え、精市くん!?」 いつも輝いているような人だけど、今はいつもの数倍は輝いて見える。 いつも意地悪だけど、精市くんっていつも救世主だよ! でも私の価値が500円っていうのはちょっと…安すぎるような気がする。けど、それを言ったら精市くんにまた何かされるというか言われるからこの疑問は心の中だけに留めておこう。 「あ、そうだ」 「何ですか」 「これもらってくよ」 「えっ」 「なまえさんが稼いだものだろ、文句ないよね?」 「……ソウデスネ」 私の手を取った方とは逆の、空いている手で小銭が入っているペットボトルを掴んだ精市くんは半ば無理矢理稼いだお金を自分のものにして、みんなを混乱させたまま歩き出す。ぽかーんとしたまま私の足も自然に精市くんを追っていく。 数歩進んだ先で、精市くんは一層笑みを深め、思い出したように「そうそう」と丸井くんの方へ視線を向ける。 「なまえさんは見世物じゃないからね」 「……ゴメンナサイ…!!」 そのまま彼は手を離すことなく(若干引っ張る感じで)歩き出す。振り向いた時に見えた丸井くんの顔色は青白かった。 「うどんでも食べようかなぁー」 「…………」 「なまえさんは何食べたい?」 「あ、あの、ありがとう…」 「仕方ないよ、なまえさんって自己解決能力がないに等しいんだから、気にしないで」 「ちょ、ちょっと、いやかなりグサッときたっていうか…!」 「俺ってば素直すぎてごめんね」 「(どのへんが素直なの!?)」 (ジャイアンがいました) 上を行く |