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・・・・・ 37・・ 無理矢理イスにわたしを座らせた丸井くんは、紙とペンを取り出し楽しそうに何やら書き始める。丸井くんはすごくすごくとっても楽しそうだけど、私は全然これっぽっちも楽しくない。視線浴びまくりなんですけど!? 「できたぜぃ」 にしし、と笑った丸井くんはじゃーんと自分で効果音をつけながら、A4用紙を私の目の前に突きつける。そしてそれを机にベタリと貼り付けた。 「…………」 絶句である。紙にはでかでかと… と書かれていた。 「ま、丸井くんんん!」 「天才的だろぃ」 「どのあたりが!?」 「全てに決まってんだろー」 恥ずかしい、なんかとっても切ないんですけど! 私すごくかわいそうな子なんですけど! かわいそうな子なうっ! 羞恥心と絶望感に耐える私を知ってか知らずか、丸井くんは楽しそうに仁王くんから取り上げ空にしたペットボトルをカッターで半分に切り始めた。 「も…ご飯食べたいなんて言いませんから許してくださいお願いします」 「は? 何言ってんのみょうじ」 「丸井さまあああああ」 上半分を取り除いたペットボトルを机の端に置いた丸井くんは、こちらにも小さめの紙を貼り付ける。そこには『撮影 一枚 10円』の文字…。丸井くんんんんんんん!! この人わたしで商売する気だよ! 丸井くんんんんんん!!? クラスの人たちや廊下を通る人たちの笑い声が聞こえる。ちょ、まじこれなんていじめ…!? カタン、ペットボトルに10円玉が入れられる。恐る恐る視線を上げれば、そこには目元にうっすら涙を浮かべ口元を手で覆い隠している仁王くんの姿。もう片方の手には携帯が構えられていた。仁王くんあなた後で覚えてなさいよおおおお! 泣きたいのはこっちだわ。…仁王くんは泣いてるわけじゃないけども! 笑い泣きだけどもっ! 「ごちそーさんナリ……プッ」 「ご愁傷様の間違いでしょ」 カシャと携帯で写真を撮り終えた仁王くんは、ポケットからガムを一枚取り出し、机の上へちょこんと乗せるとそのまま何事もなかったように教室の中へ入っていってしまった。それを皮切りにクラスの人たちも10円玉をペットボトルに次々と投げ入れてはケータイのシャッターを切る。ちょっとおおおおお 「いじめですかいじめですねいじめやああああ」 「いやいや、いじめじゃねーって」 ほら、みんな楽しんでるし!なんて言いながら、ペットボトルに入っている小銭を指しながら丸井君は笑う。おま、おまあああああっ! 人を商売道具にするなんて! 丸井くんなんて今日から友達じゃないねっ! 友達じゃないねっ! 「面白いものごちそーさまー!」 「これ余り物だけど食べていーよ」 不意に聞こえてきた声のほうに目をやれば、大声で笑いながら机を運びだした女子たちがお弁当箱を手にわたしにお礼を言って、お弁当の残ったおかずを机の上に置いていってくれた。この光景はなんだかとても違和感がある。が、ちょっとジーンときてしまった。 「じゃあ、あたしからはこれで」 そう言って以前私にちょっかいかけてきた女子の一人は割り箸を置いていってくれた。割り箸を使わなくちゃいけないくらい食べ物をもらえるかわからないけどね! ていうか何この企画! 丸井くん、もっといい案があなたなら思いついたんじゃないですか!? 人任せだけどもっ! 人のこと商売に使うなんて! 大声で、目立とうとしているような声で笑われているにも関わらず前より嫌な気分にならないのは何故だろう。そこがなんか不思議だ。 でも、前に彼女たちと関わったときより嫌な気分にならないってだけで、100%嫌な気分じゃないということじゃない。できるなら今すぐ逃げ出したいくらい恥ずかしい。なにこれなんの罰ゲームこれ。私なんか勝負してたっけ負けたっけ? 彼女たちの優しい一面に感動してるせいで笑い声だって耳になじんでしまうのは本当なのだけど、居心地が悪いほうが勝っているわけで…やっぱり今すぐここから消えたいよ! 「そんな泣くなって、友達なんだから助けて当然だろ」 「逆に陥れられてるような気がするんですけど…」 「俺ってばすげー優しいよなー、はぁぁぁ」 「ただのジャイアンだよ…はは、あはは…」 丸井くんは何故か得意げに笑っていた。なんかむかつく。恥ずかしい。満足気に笑っているジャイ太を睨みつけながら、机の上にちょこんと置かれているおかずに手をつけた。おいしかった。 結局、お昼を分けてくれたのは最初の女の子たちだけで(残り物3品ほどだったのでお腹が満たされることはなかった)あとはみんな10円を払って写真だけ撮っていく野次馬だけ。 ちょ、ひどい! みんな薄情だわ! お昼はないけど10円玉の方はすでに300円以上あるかもしれない。(一枚につき10円だと丸井くんがしつこく注意していた。2枚撮るならもう一枚よこしなとたかっていたのだけれど、色々と複雑な気持ちになった) (丸井くんが得なだけ!?) 注目の的 |