走る | ナノ
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・・・・・ 23・・

「みょうじー」
「あ、仁王くんおはよー」
「おう、丸井見とらん?」

さっきまで机に突っ伏して寝ていた仁王くんが起きて早々に丸井くんの行方を訊いてきた。さっきまで隣でプラモデル作ってたんだけどな。隣を見てみるとさっきまで散らかっていた机の上は綺麗に片付いていた。どこ行ったんだろ?

「さっきまで居たんだけど…」

読書してていつ席を立ったのかも分からない。お役に立てなくてすみませんんんんん。ちなみに今は掃除の後で生徒のほとんどは既に教室を後にしている。

「あ、部活じゃない?」
「だったら俺がここに居るわけないじゃろ」
「仁王くんってよくサボってそうだから」
「お前さん…やっぱり最近言動に毒が…」
「そ、そんなことないよ! やだなあ」
「そりゃこっちのセリフじゃ」
「今日部活ないの?」
「珍しく休み。だから丸井のやつと買い物行く約束しとったんじゃが…」
「帰っちゃったのかな」
「たぶんな。しゃーない、俺一人で…」

あ、そっか。もう放課後なんだ。読書に浸っていたせいで、頭がよく働かない。頭の中には小説の内容で埋め尽くされていた。犯人は別にいるのかそれとももう既に出てきているキャラクターの中の一人なのか…そのことばかり考えてしまう。私ももう帰ろうかなあ。

「そうじゃみょうじ帰りひま?」
「え、うん、ひまじゃなかったらここに居ないよ」
「ちょお行きたいトコあるんじゃが、一緒に行かん?」
「えー、私が?」
「うん」
「仁王くんと?」
「うん」
「えー、いいの?」
「めんどくさそうな顔すんな」
「してないよ! いいけどどこ行くの?」
「んー、買い物」

私としては、何を買いに行くのか訊いたつもりだったんだけどなあ。まあいいや。さっきまで読んでいた本を鞄に詰めて立ち上がる。仁王くんは机の横に引っ掛けてあるほとんど何も入ってない鞄を担いで席を立った。ちなみに今私が読んでいる本は柳生くんから借りたミステリーものの小説だったりする。この前までミステリーと推理小説の違いが分からなかったのだが、柳生くんが丁寧にご教授してくださった。柳生くんには悪いがほとんど内容はつかめなかった。ごめんなさい。

「何買いに行くの?」
「着くまで内緒じゃ」

そう言って人差し指を口元に宛がった。あ、言うつもり0ですか。とりあえず着いてからのお楽しみってことで私もこれ以上詮索するのは止めておこう。

校門の所まで仁王くんの後ろを歩いていたのだけれど、いきなり後頭部に手を回され前に押される。前のめりに倒れそうになったのを、足を進めて回避した。仁王くんの隣に並ぶような形になると、彼は満足気に笑って2回頭をぽんぽんと撫でてから手をおろした。

「なに、転ぶかと思った!」
「そん時はちゃんと受け止めてやるから、隣 歩きんしゃい」
「あ、うん」

ごめんと一言謝ると、ここは謝るとこじゃないと彼は笑う。

仁王くんに連れられてやってきたのは小さなアクセサリーショップだった。女の子ものが並んでてとても男子が好んで来るような場所ではなかった。ここに本来なら丸井くんと二人で来るってことだったから吃驚だ。吃驚っていうか、なんていうか。男子二人が…。うーん、なんだろう、複雑?
てか男子二人がこんな可愛いものに囲まれて何を買うつもりで、何を目的としていたんだろうか疑問が残る。仁王くんにそういう趣味はないと思うけど。もちろん丸井くんにも、だ。確かに丸井くんは男子にしては可愛いけど、男らしい部分の方が目立ってるし、可愛いものって言っても彼のお菓子くらいだと思う。お菓子を幸せそうにむさぼる姿は小さな子供のようで可愛いのだ。丸井くんが食べてるお菓子も可愛いけどね。あ、袋の絵柄が。

仁王くんは私の疑問を知ってか知らずかずんずんと先に進む。あ、もしかして、彼女さんへのプレゼントとか、かな…? ていうか仁王くんって彼女いたんだ。確かにモテそうな顔してるもんなー。モテそうな、って言っても実際モテてるんだけど。この前も、告白されている場面を偶然目撃してしまった。いつも断ってるみたいだから何でだろうって思ってたけど、彼女さんがいるんならあたり前か。

「仁王くんも水くさいなー、もう」
「最初からお前さんに頼めばよかったな。丸井とこんなトコ2人で来てたら怪しい」
「え、そ、そんなことないけど! うんまあ仕方ないさ!」
「なにが?」
「ううん、別に!」

仁王くんはピアスが並んでる所で足を止めた。どれにするかのー、なんてぼやいている。仁王くんの彼女さんってピアス開いてるんだ。なんかかっこいいなぁ。私もいつか開けてみたいな、一つくらい。痛いのやだけど。

「なあ、女子ってどーゆーんが好きなん?」
「え?」
「こーゆーの俺にはわからん。みょうじ選んで」
「え、ええ! 私の好みで選べないよ!」
「じゃあ、ソイツの特徴にあわせて」
「ど、どんな人なの?」
「そうじゃのー、髪は金髪で…」
「ふむふむ」
「顔は派手じゃな。化粧バリバリで」
「へー(仁王くんがバリバリって言った!)」

金髪で、派手顔でお化粧してて…もやもやと言われた特徴を組み合わせて人物像を作っていく。と、がっちり条件を満たす人物が浮かんだ。――え、うそ……!

「な、なんで言ってくれないの!」
「…は?」
「宮城さんが彼女さんだったなんて…二人して隠し事なんて酷いです」
「は!?」
「二人ともちっともそんな素振り見せないし…」
「ちょ、待て待て待て! なんじゃそのおっそろしい誤解は!」
「だ、だから仁王くんの彼女が…みや、」
「いや…待て、俺が、宮城と? ないないない、そんな事になったらこの世は終わりじゃ。つうか俺の人生が終焉する」
「え? 違うの…?」
「ちゃうちゃう、なんっつー恐ろしいことを言うんじゃこの口は!」
「む、ぅ…!」

そう言って、(本当に吃驚したようで、珍しく仁王くんの表情が崩れた。え、そ、そんなに?)両頬を摘まれる。ぎう、左右に引っ張られて頬が伸びる。痛い止めてと抗議したら、仁王くんはおかしそうに笑った。

「いひゃいっへは! はひゃひへほっ!」
「え、なん? はひふへほ?」
「うぁふぁーっ!」
「……ぷっ」

吹き出すように笑う仁王くんをジトリと恨めし気に睨んでやる。悪い悪いと ちっとも悪く思ってないような口調で仁王くんが謝ってからつねられていた頬が開放される。いってえええええ! 仁王くんの親指が頬を撫でた。吃驚してとっさに仁王くんの指から顔をずらす。

「マルチーズみたいな顔してた」

そう言って思い出し笑いを始めた仁王くんの背中をバシッと手のひらで叩いてやった。

(で、彼女って誰なの?)
加減無し