走る | ナノ
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・・・・・ 22・・

精市くんは、家でもそうなんだけど、学校ではさらに私と距離を置きたがる。
私に近づかないように、家にいても部屋にこもってばかりだし。私も一応居候って立場だから、お手伝い意外は部屋にいることが多いんだけど、たまにゆんちゃんと一緒にリビングでテレビを観てる時に精市くんが入ってきても、私を見つけるなり精市くんは部屋に戻ってしまう。何か用があって降りてきたのかもしれないのに、それを済ませることもなく部屋に戻られて、私はやはり避けられてるとか嫌われてるとか思ってしまう。そんな精市くんの行動を目にするたびに、ゆんちゃんが「ごめんね」と謝ってくるのも、辛かった。なんで、私に謝るの? 謝られてるのに、なんだか私が悪いといわれているような気がして、辛い。彼女もそんなつもりで言ってるんじゃないってわかってるのに、気持ちだけどんどん卑屈になってしまう。

はあ、昼休みに、お弁当にも手を付けずに重い溜息をついた。ちなみに私は未だ教室に一人。今日はみんなそれぞれ用事があっていない。丸井くんも仁王くんもテニス部のミーティングだとかでいなくて、宮城さんも委員会でお昼はいない。(宮城さんが風紀委員なのには驚いたなあ。あの人頭まっきんきんなのに。校則違反じゃないんですかね?)
というわけで、今日は私一人だった。ていうか、教室に誰もいない。友達もいない。あー、かなし。
とりあえずお腹はすいているので、お弁当を机の上に広げる。それから携帯も取り出して、素早く操作した。パソコンのキーボードを打つのは遅いけど携帯のボタンを押すことに関しては結構自信がある。めっちゃ速いよ私の親指!

本文に「元気ですか」とだけ書いて送信する。相手は岳人。お弁当を食べながら返事を待つ。お行儀が悪いけど、今誰もいないし見てないしいいかな、なんて自分を甘やかす。2分もしない内に机の上に置いた携帯が振動した。机に置いたまま携帯を開いて人差し指でメール画面を開く。相手はもちろん岳人だ。

『いきなり何』
『暇』
『お前今授業中じゃねえの?』
『昼休みだよ』

岳人はメールの返事が早い。
おかずを全部食べ終わった時に再び机の上の携帯が振動した。メールのとは違い、今度の振動は長い。

「電話‥‥?」

相手を確認しないまま通話ボタンを押す。たぶんタイミングから言って岳人かなあ。

「はいはい?」
『あー、俺! 岳人だけど』
「うん、今そっちもお昼‥だよね?」
『おー。なに、お前一人で食ってんの?』
「いつもはちゃんと友達と食べてるよ!」
『お前って友達少ねえなぁー』
「う、うるさいなあ」
『なあ、なまえ今幸村ンとこに住んでるんだろ?』
「そうだけど、それが何?」
『立海と試合してえんだけどさあ、なまえ頼んでよ』
「えー! 無理無理! 無理だよ、無理!」
『はー? なんで』
「だ、だって、そんな仲良くないし‥‥図々しいじゃん」
『‥‥‥元気ねえな』
「そうだね」
『(そうだねって)‥‥ん? あ、ちょっ、何?!』
「岳人?」
『おま、やめ、ま、!』
『なまえ―!!』

いきなり耳に入った大きな声に、咄嗟に電話を耳から離してしまった。ていうか、耳! 痛い! キーンて!

「ジローおはよー」
『うん! おはよー! 電話なんて久しぶりじゃない?』
「‥‥ジローとは昨日電話したばっかだよ」
『あ、そうだったねー。丸井くんの話で盛り上がったよねー』

わくわく、そんな効果音が似合いそうな声でジローが昨日の事を話す後ろで、「はあ?! 何でなまえと電話したこと言ねえんだよ! くそくそジロー!」という岳人の騒ぎ声が聞こえた。
ジローが喋る中で、後ろの「おい、それ俺のケータイなんだからな! ちょ、かわれよ!」とか岳人の声がジローの声に混ざって、二人が何を言っているのかいまいちよくわからない。丸井くんが、何? 丸井くんがケータイでエクスタシーで通話料‥‥‥‥? 話がよめん。相変わらずだなあって溜息がでたけど、やっぱりこの会話のテンポが私は好きだった。残りのご飯も食べてしまおうと、一方的に(岳人には悪いけど)通話を終了してお弁当の片付けに入った。


(やっぱあの2人大好き)
元気出た