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・・・・・ 20・・ たまえ、たまえ騒いでいたら、仁王くんが「そんなにたまえが好きなら本物紹介してやろうか?」と提案してきた。えええええええ! 「や、そんな、本物なんて、べつにえっと、わ、私なんか‥ねえ?」 「なぜ照れる?」 「た、たまえ!」 「意味わからん」 そんなこんなで、放課後柳生くんと会うことになってしまった。ほんとどうして? いや、嫌じゃあないけど‥‥なんか、妙に緊張しちゃうね。 「部活終わるまで待っててくれるか」 「え、」 「じゃあ、行ってくるなり」 「なりってちょっと」 私の言葉もきかずに仁王くんは勝手に部活に行ってしまった。あの人本気だ。部活終わるまで何してようかなあ。暇だ。教室にただ座って待ってるだけなのも退屈なので、思い切って精市くんの所有地(と化してる)花壇に行くことにした。 「おお、綺麗」 そこには、色鮮やかに咲く花達がいる。なんだか春だなあ、なんて気分になってくる。 「なまえさん?」 「あ、」 ちょんちょん、と花びらをつついていたら、いつの間にやら隣に精市くんの姿があった。花壇の前でしゃがんでいる私を、精市くんが見下ろしている。 家では毎日顔を合わせてるのに、学校では殆ど話したりしないからなんだか久々のような気がする。久々といえば、岳人たちともご無沙汰してるなあ。つい3日前まで毎日メールしてたのに、ここ数日音沙汰なしときた。ちょっぴり寂しい。 「何してるの? 」 「お花、見にきました」 「へえ。まだ帰んないんだ」 「うん、仁王くん待ってる」 「‥‥仁王」 探るように、目を細めた精市くんにぞくりとする。彼はたまに、そうやって冷たい目を私に向ける。そのことが悲しくて、私はいつの間にか精市くんと距離を置いていたのかもしれない。 あんなに仲良くなりたいと思ってたのに、宮城さん達が仲良くしてくれるから、そんな思いも薄らいでいたのかもしれない。人でなし、みたいに思えてくる、自分が。 どうして、私を冷たい目で見るのだろう。それを考えると答えはひとつしかなくて、余計に悲しくなった。精市くんは、私を嫌っている。まだ、気に食わない存在だと、思ってる。それはそれで彼の勝手なんだけど、やっぱりそう思われるのは、私だって気に食わない。私が何をしたんだっていうんだ。 本人に直接きいたわけじゃないからこれはただの憶測にすぎないけれど。 「仁王に、何か用?」 不機嫌オーラを背中に漂わせながら笑顔で聞いてくる精市くんに、また心臓が痛んだ。 目が、笑ってない。彼は私に、笑顔しか向けてくれない。しかも、口元に弧を描いただけの笑み。仁王、という言葉を最初に言った時に、眉をひそめたのを私は見逃さなかった。彼に用があるかと聞かれたら、用はないわけで、返事に困る。柳生くんを紹介してもらう、なんて言ったらきっと図々しい女だと思われる。ただ、ちょっと、たまえが気になっただけ。なんて言うのはなんだか恥ずかしい。 「ちょ、ちょっとね」 曖昧な返事が不服だったのか、さらに疑うような目で見てくる。 「精市くんは、部活行かなくていいの?」 話をかえたくて、冷たい視線を逸らしたくて頭の隅で気になっていたことをきいてみた。 「うん。もう少ししたら行くよ」 君に言われなくてもね、そう言われたような気がして、目を伏せた。精市くんの言葉は優しいのに、言葉にはどこかに棘が隠れている。それを私は気付かない内に、無意識に拾ってしまう。自ら指に刺しているようなものだ。つい、言葉の心理を深読みしてしまう。 「パンジーが、綺麗に咲いてたから」 静かに言って、花壇の前にしゃがみこんだ精市くんが、優しい目で花を見る。私には向けないようなほほ笑みつきで。しゃがんだ精市くんと、視線が絡む。 「俺が、毎日水やりしてたんだ」 「そう、なんだ」 「やっぱり、綺麗に咲いてくれると嬉しいよね」 「私‥‥」 「植物、興味ない?」 「ううん! 好きだよ。でも、いつも枯らせちゃうから‥‥」 夏休みの自由研究で、あさがおの絵日記を付けようと種を植えても、咲く前に枯らしてしまう。いつも、枯らせちゃう。いつしか、花が可哀想に思えてきて、私は植物を育てることをやめた。 花の命を生まれる前に殺すみたいで、悲しかった。 「じゃあ、今度花を育てるコツ、教えてあげるよ」 「え?」 にこ、っと笑った精市くんは、今までに見たことないくらい穏やかな顔をしていた。色とりどりの花たちに負けないくらい、綺麗に目を細め笑う精市くんに、胸がきゅうってなった。 「じゃ、俺はそろそろ部活に行かなくちゃ」 「う、うん、頑張って」 「ありがとう。――― そうだ、」 不意に立ち上がった精市くんは、急に真剣な顔を作って私を見る。慌てて私も立ち上がる。精市くんが、一瞬だけ切なそうな顔をした。それからまた真面目な顔をして、耳元で低く――― 「仁王には、気を付けて」 (――どういう、意味?) 囁かれる |