走る | ナノ
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・・・・・ 19・・

「あ、なまえ来た」
「遅い!」
「ひぃっ!ごごごめんなさい!」
「お前いつもそうやって威嚇してんの」
「威嚇じゃないわよ!」
「そんなんだから友達できないんですぅー」
「なんですって! あんたなんかジャッカルがいないと何も出来ないくせに!」
「はああ? べっつにジャッカルなんていなくても大丈夫だし」
「お、おい‥‥」

仁王くんに頼まれたあんぱんとコーヒー牛乳と、それから私の分のクリームぱんを買って宮城さん達のところへ行くと、遅いと注意され、それから丸井くんと宮城さんの口論が始まってしまった。ジャッカルくんが可哀想‥!

「わ、私はジャッカルくんを必要としてるからね!」
「みょうじ‥‥! お前っていいやつだよな」

いつも丸井くんに仕事とか押し付けられてるのに、頼まれると断れないジャッカルくんの方がいい人だと思う。健気だよなあ。

「友達友達ってねえ、あたしはそんなんいなくても平気なの!」
「おうおう強がっちゃってよー、無理すんなー」
「丸井くん、言い過ぎ!」
「すんません」
「宮城さんもそういう悲しいこと言わないでください」
「すいません」
「それに、宮城さんだって友達いるじゃないですか」
「お前だけだろ?」
「あたしは丸井みたいに広く浅い付き合いが嫌なだけ」
「んだと!」
「そういう丸井くんだって宮城さんのお友達でしょ?」
「はああ? 俺が? こいつの?!」
「な、指差すなっ!」
「けんかするほど仲良しなんですよ」
「みょうじ的見解な」

不服そうな顔をしながらお互いを見る宮城さんと丸井くんは、まさに犬猿の仲。まあお互いを嫌ってるわけじゃないから、実は仲はいいのかもしれない。うん絶対この2人仲いいよ。

「そういや仁王見なかった?」
「ああ、すぐ来るって。柳生くんって人とお話してた」

クリームパンを食べながら、柳生くんのことを思い出す。たまえ! は新鮮だよねえ。たまえ! やばい、つぼった。たまえ! たまえ! なんか楽しくなってきたんですけど。

「たまえ!」
「は?」
「たまえ!」
「なまえ、壊れちゃった?」

あんぱんを狙う丸井くんに「やめたまえ!」と言ってみた。

「や、柳生‥‥!」
「たまえ! たまえ!」
「やめろ! 俺まで言いたくなる!」
「たまえ! たまえ!」
「たまえ! たまえ!」
「たまえって中毒性高かったまえ」
「おい、語尾みてぇんなってんぞ」

呆れるジャッカルくんと、たまえ語尾に侵された宮城さんをスルーして、丸井くんと2人でたまえたまえ言い合ってると、後ろから「柳生が量産されちょる」と仁王くんの声がきこえた。振り返れば苦笑いしている仁王くん。
「おせーぞ仁王」丸井くんがそう言えば仁王くんは溜息を小さく吐いた。

「柳生の話が長いんじゃ」

小言が多くてかなわん、そう言いながら席に着く仁王くんに自分の分と一緒に買っておいた飲み物とパンと、それからお釣りを手渡す。

「あ。はいこれ」
「おー、ありがとさん。悪かったな」
「ちょっと仁王、なまえをパシリにしないでくれる?」
「ちょお、聞いて。こいつ寝てる俺の頭 思いっきり殴ったんじゃけど」
「あ、あれは仁王くんが、」
「なまえ、グッジョブ!」
「宮城に感化されてね? こいつの未来が心配になってきた」
「丸井くんまで何を言うんですか」
「お前ら後で体育館裏決定だから」
「きゃーブンちゃんこわぁーい」
「やーん、まーくんもこわーい」
「キモイんですけど」
「二人ともぶりっこはやめたまえ!」
「たまえ! たまえ!」
「たまえ! たまえ!」
「そろそろやめたまえ…」

ジャッカル君が小さく呟く。もともと肌の色が濃い人だからわかりづらいけど、頬っぺが少し赤くなっているような気がした。もしかして、照れてる…?



(告白の方じゃないわ!)
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