走る | ナノ
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・・・・・ 18・・

今日も今日とて、丸井くんは一番乗りで教室を飛び出して学食へ行ってしまいました。宮城さんとお友達になってから、お昼が賑やかで楽しいです。
黒板に書かれた文字を急いでノートに写していたら、いつの間にか教室には私と、それから机に突っ伏して寝ている仁王くんだけになっていた。時計を見るとお昼時間を10分もロスしている。宮城さんを待たせてる事を思い出し、財布を持って教室を出た。

「あの、すみません」

ところで、声を掛けられた。

「はい?」
「B組の方ですよね」
「はあ」

七三分けという今時珍しい髪型をした眼鏡のお兄さんに見とれて、というか吃驚して曖昧な返事をしてしまった。いやあそれにしても最近七三分けの人って見ないよなあ。てかお兄さんって同じ学年じゃん。同い年じゃん。
この人って確かこの前仁王くんと一緒にいた人じゃないか? 仁王くんには失礼だけど‥仁王くんのお友達にしては丁寧な話方をする人だ。ほんと、今時珍しいです。

「仁王くん、いらっしゃいますか?」
「あ、はい。いますよ。今呼んできます」

敬語につられてつい私までかしこまってしまう。机に突っ伏している仁王くんを起こすのって実は嫌なんだよなぁ。低血圧とかで起きると機嫌悪いし、起きてるくせに寝たふりするし、意地悪してくるし。外で待っている彼と、食堂で待ってる宮城さんたちをいつまでも待たせるわけにはいかないので、意を決して仁王くんを揺すってみる。

「仁王くーん、起きてくださーい」

ゆっさゆっさと身体を揺すっても、動く気配はない。本当は、私が近づいた時点で起きているのに。

「仁王くん起きてるよね? 起きてよー」
「仁王くん 寝てまーす」
「(起きてるよー!)」
「‥‥‥‥」
「お友達待ってますよ?」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

おーい。ちょんちょん、と仁王くんの尻尾‥もとい、チョロ毛を軽く引っ張ってみる。意外とさらさらの髪にちょっとだけ嫉妬した。ええー、なんで痛んでないの?
仁王くんはなおも寝たふりを続けている。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

―― ベシッ

「ぶっ、!」

思い切り頭をはたいてやると、ゆっくりと仁王くんが頭を持ち上げた。私を見るその目はどこか恨めしそうだった(そりゃそうだ)

「みょうじ‥宮城に似てきとらん?」
「そんなことないよ」
「(絶対影響されとる)」
「あ、そうだった、お友達待ってるよ?」
「友達?」

私の後ろに(と言っても教室の外だけど) 人を見つけると、「柳生か」とつまらなそうに呟いた。誰だと思ったんだろう?
ゆるゆると立ち上がった仁王くんにつれて私も本来の目的を思い出して、教室を出る。ちらりと柳生くん(だった、よね?) を見る。苦笑いしていた。軽く頭を下げて会釈すると、「すみません」 申し訳なさそうに頭を下げた。いえいえいえ恐縮です!
早く行かないと。先に席を取りに行った丸井くんたちをいつまでも待たせるのは失礼だ。きっと今頃、丸井くんと口論しながらジャッカルくんを困らせてるはず。ああ、その光景が目に浮かぶよ。

2人の横を通り過ぎたところで仁王くんに襟首を掴まれる。

「ぐえっ」
変な声をあげてしまった。仁王くんの目的がわからなくてはてなマークが浮かぶ。な、な、なんですかねえ一体。頭叩いたの怒ってるんでしょうかねえ。
その前に、く、首が、絞まってます仁王くん。

「仁王くん、やめたまえ!」

や、やめ、? やめたまえ‥!? 今時そんなん言う人いないですよ柳生くん! たまえって! たまえって! なんか感動した! やめたまえ!

「な、なんでしょうか‥?」

眠りを妨げたことに怒ってるのか、はたまた頭を叩いたことを怒ってるのか。仁王くんって怒るとすごく怖いと思う。怒られたこともなければ、怒っている彼を見たことないから実際どうか知らないけど。

「俺もすぐ行くから」

そう言って、右手に500円玉を持たされる。

「え、」
「焼きそばパンとコーヒー牛乳よろしくな」
「あ、はい」

ポンポンと頭を撫でる仁王くんに私はポカーンとした表情になる。そんな私に呆れたのか、柳生くんが溜息を吐いた。怒られるんだと思ってたから、拍子抜けだ。仁王くんって温厚だよね。それからめんどくさがり。怒るのもめんどくさいとか思ってるんだろうなあ。めんどくさがり=温厚。

「じゃ、じゃあ、失礼します‥‥」
「おう。コケんようにな」
「こ、こけないよ!」
「この前思いっきり転んでたナリ」
「忘れてください!」

仁王くんが言葉の代わりにまた頭を撫でる。いやいや、どういう意味ですかそれ。


「彼女‥‥最近よく宮城さんと一緒にいる方ですよね」
「ああ、すごいじゃろ」
「はい?」
「あの宮城と一緒にいられる、なんて」
「はあ‥。あ、それじゃあ宮城さんに失礼ですよ」
「でもそう思うじゃろ」
「はあ」
「みょうじなまえっていうんじゃけど」
「はあ」
「面白いやつぜよ」
「はあ」
「よう転ぶし、見てて飽きん」
「はあ」
「お前そればっかやの」
「‥‥あの、そろそろ本題に移ってもいいですか?」
「はあ」


(コーヒー牛乳とセット)
あんぱん