走る | ナノ
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・・・・・ 17・・

丸井くんのプリンを勝手に食べてしまったにも関わらず「食っちまったもんはしゃーねーよな」と男前を発揮した丸井くんはしぶしぶながらも許してくれた。そしてチョコレートケーキを黙って食べ始める。なんだデザート他にもあったんだ。(仁王くん曰く「アイツは1日5個は食うちょる」らしい。よく太らないな)

「丸井くん、丸井くん」
「んー?」

唇の端についたチョコを舐め取りながら丸井くんが返事する。

「女子取締りって人が気になるんですが」
「ああ、…そういやあいつ今日学校来てたっけ?」
「いや、見てねえ」
「そこにいるやつ、そうじゃなか?」
「どこよ」
「ほれあそこ」

あそこ、と仁王くんが指した先には一人の女の子がいた。肩口にかかる程度の長さで、髪色はきんきらきんの、それはもう…目立つ子でした。いや、目立つといえば丸井くんや仁王くんとジャッカルくんもすごい目立ってるんだけど。

「おーい! 女子取締りー!」

丸井くんが大声で彼女に向かって叫ぶ。彼女がこちらに気付き、露骨に眉を顰めた。それから大またでこちらまで歩いてきたと思ったらダン、とテーブルに両手を叩きつける。ひぃぃぃぃぃ!

「恥ずかしいからんなばかデカい声で呼ばないでくれる?」

ギロリと丸井くんを睨んだ彼女にひるみもせずに丸井くんは笑いなが「紹介してーやつがいるんだけど」と私を指した。

「紹介したい人ぉー?」

派手な髪が、きらきら光って綺麗だった。それに見とれていたせいか、彼女がこっちを向いた時にあからさまに動揺してしまった。それを見ていた仁王くんが吹き出すように笑う。

「あら、あらららら? あなたもしかして例の転入生?」
「(例の?)…そうだと思います」
「え、この子?!」
「……あの」
「や、氷帝から来たっていうからもっとこう、すごいのかと思った!」
「お前失礼過ぎるぞ」
「なんかこう偉そうな人だと思ってたんだよねー」

吃驚したって顔をしながら彼女の手が私の顔を掴んでぺたぺたと確かめるように叩かれる。氷帝ってそんなに偉そうだと思われてるの?! な、なんかショックだ。

「えぇー、普通に可愛いんだけどー」
「おい、変態やめろ」
「え、これなに? なにこれスッピン?」
「化粧ブス」
「丸井死ね」
「お前が死ね」
「あたし可愛いし」
「化粧だろ」
「うわー、何こいつ、すごいむかつくー」
「お前がむかつく。つーかいい加減離せよ」
「みょうじ 怖がってるんじゃけど」
「い、いや、美人さんだなと…」
「無理すんな、ケバイって言いたいんだろ」
「丸井殺す。てか今、美人って言った? あたし? あたし美人? もっと言ってもっと言って」
「すげえ図々しい女だなお前」
「金髪、似合って、ます!」
「今ぜってぇ無理したろ」
「してないよ!」
「ありがとー! ていうかみょうじ…なにさん?」
「なまえです」
「なまえさん! あたし宮城、よろしく」
「コイツが女子取締まり役な」

笑いながら言う丸井くんに「だから違うって言ってんじゃん!」と宮城さんのつっこみが入った。女子取締りって一体なんだろう…?

「あの、女子取締まりって?」
「女子のボス猿みたいな感じ」
「ボスじゃな」
「え、ぼ、ボス…?」
「だから違うってば! なんなのあんたらいつも」
「要するに女子たちに怖がられてんの」
「取締ってなんかないから、ほんとなんなの、あたしが好きなの」
「それだけはねーな」
「ないない」
「あんたら後でまとめて片付けるから」
「こいつの前じゃ女子も怖がってなんも出来ないんだよ」
「へぇー」
「まあ男子からも怖がられてるがの」
「今も恐ろしいこと口走ってたしな!」
「おー、怖い怖い」

気さくでいい人なのに。女の子特有のものだろうか、ちょっと自分とは違うから仲間に入れないとか。怖がるってなんでだろう。ちょっと派手ってくらいなんだけどなぁ(さすがにここまで明るい金髪の女の子は他にいないかもしれない)

「じゃあ、なまえさんは明日からあたしと一緒にお昼ね」
「は、はい?」
「ただでさえ氷帝ってだけで目つけられてるっぽいしさ。ね?」
「えと…(そうだったのか)」

氷帝ってそんなにアレなのかな。だったら悲しい。まあ、ちょっとは有名な学校だからわからなくもないけど…。跡部があんなだし。でもだからってみんながみんな跡部みたいな高慢ちきってわけじゃないんだよなあ。いや跡部を悪くいうつもりもないけど。実際跡部は氷帝ではしっかりしてるし、頼れるんだよな。他校の生徒にはただの目立ちたがりとしか見られてないかもだけど。原因の5%は跡部だな。

「よかったな友達できて」
「ちょっと、あたしが友達いないみたいな言い方しないで」
「事実ナリ」
「あたしが個性的過ぎるからあの子らと合わないだけなんだからね」
「合わせる努力しろよ」
「かったるいわ!」
「ぬるいわ!」
「たるんどる!」
「真田の真似やめろ」

宮城さんに続き、丸井くんと仁王くんが続き、最後にジャッカルくんのツッコミが入った。どうやら真田さんという人物の真似らしい。え、ていうか、さっき丸井くんなんて言った?

「あの、宮城さん」
「かったるいわ!」
「やめろ。引かれてるから」
「うん、ごめん何?」

「わ、私とお友達になってくれるんですか?」

「え」「え」「え」「え」
「(このリアクション前にも…)」

「あ、う、うん! なるなる、友達ね!うん、友達だ!」
「いいんですか? わー、嬉です!」
「あ、あたしも嬉しいで、す」

「(なに今の可愛くね? 反則じゃね?)」
「(みょうじすごい嬉しそうなんじゃけど)」
「(宮城がキョドってんの初めて見たな)」

「お友達1号ですね!」

「あれ、今1号って言った?」
「え? まじでか、いやいや、え」
「…まあ相手女子だし」
「…あれ…?」


(み、みんなも友達です)
俺らは?