走る | ナノ
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・・・・・ 15・・

結局 精市くんの許可は下りず、部活が終わるまで教室で暇を持て余すことになってしまった。うむ、暇だ。教室の窓からテニスコートを探してみるが叶わなかった。見えるのは野球部が占領しているグラウンドくらいだ。今日サボった分の勉強をこなして再び外に目を落とす。
野球部の一人がボールを投げる、そのままボールはまっすぐに進む…と思いきやバッターの方には行かず近くにあった花壇へと直撃。あちゃーと他人事のようにその光景を眺める。まあ他人事なんですけどね。 …ていうかなんであんな所に花壇が…? 個人栽培ですかね?
野球部の人達の顔が青ざめていく…ように見える。こっからじゃよく見えないけど慌てているのは確かだ。

………あっれー、なんか精市くんが見える。テニスコートからわざわざ出張とか。どうしたんでしょうか。笑顔でグラウンドにやってきた精市くんはそのまま野球部の人みんなを呼び集めて何かを伝えていた。終始笑顔だった。野球部員の人達は泣いていた。


後で本人に聞いてみるとどうやら精市くんはガーデニングが趣味らしい。そういえば毎朝庭に出てるよなあ…そういう事だったのか。あそこは精市くんのテリトリーだったらしい。いや学校の花壇を勝手に私物にしちゃっていいのか?
まあとにかく彼曰く 「花も大事に出来ない奴は人も大事に出来ない」、らしい。そうか精市くんは誰よりも綺麗な心をお持ちなのか、そうかそうか。 それじゃあ一体、この恐怖心はどこから湧いてくるのだろうか。 とりあえず 「そうですね」 なんて返してみたけれど疑問解決には繋がらなかった。でも精市くんいいこと言ってるには違いないんだよなあ。圧迫感さえなければ彼は100%善人で間違いない、が しかし先ほどの野球部の人達の表情を見ただけでは120%精市くんが加害者となって映ってしまう。私も植物は大事にしよう。野球部員の顔が浮かぶ。とり肌が立った。それを見た精市くんが 「どうしたの」と、いつも以上に口端を持ち上げながら聞いてきたのでなんでもないと全力で首を振っておいた。



(一体なにがあったんだ)
ご愁傷様