走る | ナノ
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・・・・・ 14・・

「今のってみょうじじゃねえ?」
「そうみたいじゃな」

食堂でパン買って、そういえばみょうじって食堂の場所とか知らねぇよなって事を思い出して、俺超優しいからみょうじの分も買ってやって。食堂出る時に仁王が来て 「一人で教室戻んの寂しいから待ってて」とかキモイ事ぬかしやがったから、俺超優しいから仁王待ってやってそれから急いで教室きたんだけど。騒がしい(女子の)声が教室からしてたんで何だろうなー、って仁王と話してたらみょうじが教室から早足で出てきた。そっから女子の笑い声がまたでかくなった。ったく、女子取締役どこ行ったんだよ。取締役って、自分で呼んどきながら堅いな。

「あ、そういえば立海の制服着てたな」
「やっぱ氷帝のが可愛かったぜよ…いいなー氷帝」
「仁王 きもいんだけど」
「ブンちゃんひどい!」
「お前にブンちゃんとか呼ばれると萎えるわー」

ふざけながら教室に入ると俺の席の周りに女子(6人くらいの)グループが群がっていた。
ちょーっと、俺 人気者やばーい。棒読みでそう言えば隣に居る仁王がブンちゃんきもーい、と乗ってきた。ので、膝の裏辺りを蹴ったやった。膝かっくんされた時みたいな体制になった仁王超かっこわりー。おまけに両手ポケットに突っ込んでたから余計にかっこ悪かった。つーかコイツいつ飯食ったわけ?

「何やってんだよぃ」
「あ、丸井…」
「それ、あいつの制服じゃん?」

みょうじの分のパンも仁王に預けて自分の席(正しくはみょうじの席)に近づけば笑いながらみょうじの制服掴んでる女達の顔が強張った。あー、そーゆうこと。はいはい俺空気読めるから悟っちゃった。声を掛けるとビクっとわざとらしいくらいに肩を揺らした女子達を見ながら笑みを深めた。さっきまでの笑い声はいつの間にか消えている。

「べ、つに何もしてないじゃん」
「ちょっと氷帝の制服が可愛いから見せてもらってただけよ」
「本人の許可無しに?」
「…う」
「人の所有物勝手にさわんなよなー」
「みょうじさんはちょっとトイレに…」
「で、そちらのハサミさんはどうする気なわけ?」

ちょっと睨んで指摘すればみるみるそいつらの顔色が青くなっていく。陰湿な事してんじゃねーよ。そういうの見てるとイライラする。

「みょうじがお前等になんかしたわけ?」
「……べ、別に丸井に関係ないじゃん!」

一人がそう反発すれば黙っていた女子達が加勢してきた。ったくこれだから女は面倒なんだよなー。つーか仁王どこ行ったアイツ。まさかまだ教室の入り口で突っ立ってんのかよぃ。

「一応みょうじって俺の隣の席だしー、そういう事されんの俺としてもすっごい迷惑なんだけど」

そう言えば、女子供は揃って黙り込む。陰険なその目に、やれやれと溜息を吐きたくなった。

「丸井、そろそろ授業が始まるぜよ。ちゃっちゃとコレ片付けんしゃい」

仁王の声が背後からしたと思ったら頭上からパンが降って来た。お、俺のクリームパンとメロンパンと焼きそばパンがぁ! 仁王あとでしめる。そう心に誓って仁王を睨めば、当の本人は 「丸井くんがお怒りじゃけえ はよ戻りんしゃい」 と女子達に笑顔で告げていた。胡散臭ぇー笑顔貼り付けやがって。女子は女子でその笑顔に騙されてキャーキャー騒ぎながら戻るし。ったく、ほんとめんどくせー。何がめんどくせーって、めんどくせえのがめんどくせえ。ああもう意味わかんね。イラっとしたのでパン拾うの手伝ってくれてる仁王を蹴ってやった。あーちくしょう! ってかみょうじのやつどこ行ったんだよ。明らかにトイレじゃねーだろ。

「仁王、サボんぞ」
「は?」
「早くしろよ。あ、パン落とすんじゃねーぞ」
「お…横暴ナリ」

仁王の手元からクリームパンをひったくって食い始める。

「サボるって屋上か?」
「んー、そうだなぁ。美術室はもう使えねーからな」

仁王と駄弁りながら屋上のドアを開ければみょうじと幸村がいた。2人は俺達に気付いてないのか話を中断する気配はない。んだよみょうじやっぱトイレじゃねーじゃん。屋上じゃん。つか幸村くんまで一緒にいるんだけど。なんか幸村くんとみょうじ近くね? 顔近くね? なんか幸村くんの手がみょうじの顔にあるんだけど。何、2人ってそういう関係?

「それは、助かります!」
「あ、本当? よかった」
「まだ道のり覚えてなくて」
「でも部活で遅くなるから、待っててもらうことになるけど」
「待ってます」

もしかしてあの2人付き合ってる? 恋人みたいなやりとりに俺達の間に微妙な空気が纏った。だってみょうじって今日きたばっかっしょ? で、幸村くん?
隣にいる仁王が 「みょうじさんもやるのー」なんてのん気に呟いた。


「あれ、ブン太達」
「え、あ、丸井くん」

幸村くんが俺等に気付いて手招きしてくる。えー、俺等あそこ行くの。めっちゃ邪魔者じゃん。

「よう」
「おふたりさん見せ付けてくれるのー」
「あはは、そう見える?」
「あ、さっきはどうもありがとうございました」

みょうじが仁王に頭下げてる。え、何したの仁王の奴。

「お安いご用ぜよ」
「何したのお前」
「人助けナリ」
「購買部まで連れて行ってくれたんです」
「ああ、だから制服…」
「へー、仁王が。何かされなかった?」
「心外じゃ」

照れくさそうにみょうじが笑った。氷帝の制服姿のみょうじがもう懐かしい。やっぱ氷帝の制服のが似合ってたなあ。スカート短かったし。もったいない。うちの学校も氷帝くらいに短かったらよかったのに。みょうじの脚を見ながら切にそう思った。

「あ、そうだみょうじ、これ」

まだ昼食ってねえだろ、とパンを差し出す。遠慮がちにみょうじが受け取ってお礼と金を出そうとするのを止めて、俺も自分のメロンパンの袋を開けた。テニス部レギュラーサボりすぎじゃね。部長までサボってるし。つかみょうじなんか転校初日からサボってるし。


「あ、母さんからたまねぎ買って来いって頼まれた」

携帯を弄りながら幸村くんがみょうじに伝える。え、なんでみょうじ?

「何、みょうじって幸村くんと住んでるの?」
「え?! あ、住んでるっていうか…あの、」
「うん、住んでるよ」
「中学生で同棲とかやるのう」
「あ、勘違いしないでくれる? 彼女の両親が海外へ転勤するからうちが預かってるんだ」
「あ、はい。居候させてもらってます」

ちょっと居辛そうにみょうじが頷く。あー、だから氷帝から転校してきたわけね。…幸村くんどきっぱりだなあ。

「丸井くん丸井くん」
「んー? 何ー?」
「丸井くんのテニス見たい!」
「え」 「え」 「え」
「何でブン太?」
「どして丸井?」
「ジローがいつも騒いでたから興味あります!」
「あ、ああ、うん、いいぜ!」
「まずは部長の俺の許可が先じゃないかな」
「あ、ああ!うんそうだな!」


(お願いし、え、却下?)
部長さま