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・・・・・ 13・・ 『そういやお前、今は幸村ンとこに世話になってるんだってな』 「……うん」 『ちゃんとやってんのか?』 「ん? まだ、よくわかんないよ」 『アーン?』 「喧嘩しちゃったの」 『ああ、それで帰りたいとか?』 「違うよ! 精市くんは関係ない」 『まあいーけどよ』 「ごめんね」 『謝るくらいならいつもみたいに騒げよ』 「…はい…、って何それ!」 『ジロー達も心配してんぜ』 「え、…ほんとに?」 『ああ。―― じゃあ、また連絡する』 「うん、ありがと!」 ちょっとだけスッキリした。いつの間にか口元は弧を描いている。通話終了を告げた携帯を閉じて空を仰ぎ見る。頭上に、影が落ちる。 やばい、と思った 「……あ、」 「跡部に電話するなんて随分と仲がいいんだねぇ」 「せ、いち、くん…」 「初日からサボって、しかも前の学校の友達に愚痴まで漏らしちゃって」 「…、……」 笑いながら見下ろしてくる精市くんの目が影でよく見えない。口元は笑っているけれどきっと精市くんは怒ってる。いつからいたの、電話の内容聞かれてた…? なんで、ここに居るの 「氷帝に戻りたいんなら、戻ればいいじゃない」 今朝も言ったよね、と私の前でしゃがんで目を合わせられる。 「立海に居てくれなくていいんだよ、君は」 「…ごめん、なさ」 「どうして謝るの? それが君の本音ならそれでいいじゃない。氷帝に戻れよ」 「ちがっ、ごめんなさいっ…わたし」 「違うの? なにが?」 くすりと笑う精市くんが心底怖いと思った。精市くんの手が伸びてくる。瞬きすることも息をすることさえ忘れた。まるで精市くんにするなと命令されているみたいだった。ぐ、っと精市くんの手が私の髪を掴んで引っ張る。 「い、たっ…」 「立海がそんなに嫌いなんだ」 「ちが、う」 「氷帝がいいんだろ。立海はいやなんだろ?」 「そんなつもりじゃ、な…ごめんなさい」 「…じゃあ、どんなつもり?」 その言葉に答えが見つからない。気持ちとしてはちゃんとあるのに言葉が見つけられない。言葉に、形に纏められない。――気付いた事がある。私は、自分のことばかりだ。精市くんの言葉にむっとして、からかわれたことを全て押し付けて立海という学校に責任を押し付けて、氷帝と比べて、評価して跡部に愚痴って、甘えて。何やってんだろうね、私。矛盾してばかりだ。何も頑張ってない。流されてるだけじゃん。 「精市くんが、立海を好きなのと私が氷帝を好きなのは同じだもんね」 「今度は何?」 「私、精市くんを傷つけたよね」 「別に」 「私、さっきね、からかわれたの」 「聞いてないんだけど」 「それが悔しくて、もう嫌だって思った、」 「聞いてないってば」 「だから、跡部に甘えて」 「………」 「立海をばかにしたの」 「………」 「ごめんなさい」 「泣かれても困るんだけど」 「…、いっ…!」 ぐっと更に髪を引っ張られて床に叩き付けられる。いいいいい痛い!頬とこめかみを強打する。痛みで更に涙が出てきた。ば、バイオレンス…! 体が痛いのか心が痛いのかもはやわからないよ。痛くて泣いてるのか苦しくてないてるのかもよくわからなくなってきた。 「私、立海好きになりたい」 「………」 「お友達つくりたい」 「なまえさんって人の話聞かないんだね」 目を瞑って考えてみる。氷帝は楽しかった。思い出がある。私を育てた環境だ。だから、立海でも楽しくしたい。思い出を作っておきたい。折角の立海生だ。楽しみたいじゃない。そう考えたらなんだか全て馬鹿らしくなってきて、どうでもよくなってきた。ばかにされたっていいよ、からかわれたっていい。強くなればいい。それが楽しみに近づく近道なんじゃないかな。 「だから、精市くんにもわかって欲しいです」 「なに」 「跡部は、氷帝は…弱くないです。悪く言われたくない、」 「……そう」 「さっきのは、私が悪いから…ごめんなさい。でも、出てかない。頑張らなくちゃ始まらないって思ったから」 身体を起して精市くんを見据える。さっきまでの冷たい目をした精市くんはいなくて今は普通に私と向きあっている。少しでも、私の気持ちが伝わればいいのにな。精市くんが例え私が嫌いでも、私まで精市くんを嫌いになったらずっと変わらない。嫌いなままで、嫌われたままで楽しむなんて、逃げてるだけで楽しめない。と、思ったのです。 「精市くんが私を嫌いでもいいです、私頑張ります」 そう言えば精市くんの表情が緩んだ。困っているのと呆れているような感じが混ざり合った顔だった。髪を掴んでいた手がまた伸びてきて、今度は床にぶつけた方の頬をゆっくり撫でた。暫く黙っていた精市くんが小さく息を吸い込んだ。 「さっきは、意地悪してごめんね」 「え、…あ、」 「痛かったでしょ、ごめん」 「いや、全然っ、平気、!」 罰の悪そうな顔をしながら謝る精市くんに今度はこっちが困る番だ。今となっては気にしてないし。寧ろおあいこでいいと思うんだけど。撫でられている頬がくすぐったいや。それに加えて目の前にには精市くん。なんていうかこの状況、ってか体制すごい恥ずかしいんだけど! 「俺、悔しかったんだ」 「へ?」 「なまえさんが氷帝の事を話した時の顔が本当に、氷帝を好きって顔だったから」 「………」 「跡部をばかにした時も、本気で怒るから。本当に氷帝が好きなんだな、ってなんか悔しくなった」 「精市くんも、立海が好きじゃないですか」 「そうだけど、なまえさんに負けたって思ったらむかついた」 「そ、んな負けなんて…」 「だから八つ当たりした」 「好きに負けとか、ないです!」 精市くんの指が頬から離れて頭に移動する、それからゆっくり撫でられて、微笑まれる。 「出て行け、なんて言っちゃってごめんね」 (少しだけ、縮まる距離) 笑ってる |