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・・・・・ 10・・ お昼休み、声を掛ける間もなく光の早さで食堂へと走って行ってしまった丸井くん。購買部の場所を聞こうと思ったのに…。さすがに視線が痛くなってきた。なんだか居心地の悪さを感じて、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。氷帝の制服を見せびらかしているようでいい気がしない。そんなつもりじゃないんだけどなあ…。でもこういってはなんだが私は氷帝の制服の方が好きだ。立海の制服は氷帝のよりも大人っぽいデザインで私には似合わないと思った。着てみなくちゃわからないけど。 財布をポケットに入れて教室を出る。やはり目立っている…というより浮いている。唯一の友達(友達って呼んじゃってもいいのかな)丸井くんは学食に行ってしまって私が喋れる子がいない。 適当に廊下にいた女の子に購買部への道を聞く。その子は私を見て一瞬驚いていたけどすぐに快く購買部の場所を教えてくれた。教えて貰った道を頭の中に叩きこむ。 「そこの角を右に曲がって真っ直ぐ行けばすぐだから」 「ありがとうございます」 お礼を言って、彼女に言われた通りに通りに右折した。えっと、そのあとは真っ直ぐ…あ、あれ? 右に曲がったところをずっと真っ直ぐのはずじゃ…?説明を聞き逃してしまったのだろうか。いや、彼女は右に曲がって真っ直ぐだと言っていた。真っ直ぐ…壁しか見えないんですけど。行き止まりなんですけど。 「…………」 溜息を吐く。なんだか悲しくなった。氷帝に戻りたいよ…。岳人主催の送別会を思い出す。楽しかった。みんな優しかったもん。じわり、涙が滲んだ。友達ってどうやって作るんだっけ? 小学校から氷帝で、中学も繰り上がって殆どが知り合いで、友達の作り方なんて知らないよ。友達って作るもの? いつの間にかなってるものじゃないの? 目じりに溜まった涙を拭ってとりあえず来た道を戻ってみる。さっきより廊下から人が少なくなっていた。教室の前を通ると、机につっぷして寝ている人を発見した。ていうか私の後ろの席の人だ。一度出た教室にまた理由もないのに戻る事がなんとなく恥ずかしかった。 「あ、あの」 「……ん」 思い切って声を掛けると銀髪のその人は(鳳君を思い出した)むくっと身体を起して私を見た。 「ああ、みょうじさん…(だったっけか)」 「えと、あの、」 「仁王雅治」 声を掛けたはいいものの、名前も知らないのに用件だけ尋ねるのは失礼じゃないかと思い(相手が私を知っているってのが重要点)、言葉を濁らせていると察してくれたのか名前(だよね?)だけ簡潔に告げた。 「よ、よろしく…みょうじなまえです」 「おう、知っとる」 で、用件は? と聞いてきた仁王くんに素直に購買部の場所を教えて欲しいと告げる。たったこれだけのこと、道を聞いただけなのに心が重くなったのはなんでだろう。自己解決能力のなさが悔しいのか。言い訳がましいことしか思い浮かばない自分に怒ってるのかはっきりとはわからなかった。 「連れてっちゃる」 そう言って立ち上がった仁王くん(どこの方言だろう?)ちょっとだけ安心した。 「ん? どうかしたんか?」 「…せ、制服が、目立っちゃって…」 ぎゅうとスカートを握る。情けない。俯いたまま首を横に振る。私ほんと何様? 迷惑ばっかりかけてる。氷帝を盾にして甘えてばかりだ。それに、氷帝の制服じゃない、私自身を見られて、バカにされてるんじゃないかと思うと、堪らなく怖い。でもそれを氷帝のせいにしようとしてるのは誰でもない私自身だった。ちくしょう。 「みょうじ、」 「は、はい…!」 「お前さんいくつじゃ」 「…へっ?!」 「浮いとるくらいで、んな泣きそうな顔しなさんな」 「…っ…すみません」 「俺を見てみんしゃい。頭 真っ白じゃろ」 そう言ってチョロ毛を掴みながら笑う仁王くんにつられてつい笑ってしまった。真っ白って! 「それに、氷帝の制服ってうちのより可愛いし。見せ付けとけばええんじゃ」 めそめそしてんな、と呆れたように見られてまったくその通りだと思った。少しでも恥じてしまった自分がとても恥ずかしくなった。私は氷帝の制服が大好きだ。氷帝のみんなも大好きだけど。 (立海も好きになりたい) 努力する |