ツムツム王者 | ナノ
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初めて同じクラスになった名字名前は、委員会も同じで、席も近かったことからよく話すようになった。ちょっと大雑把なところがあるけど話しやすくていい奴だ。


ペンを回す自分の指を見ながら目を輝かせはしゃぐ姿を可愛いと思った。すごいね、そう言いながら笑う顔はまるで花のようだと柄にもなく思う。
別にこんなん誰でも出来るわ、なんてぶっきらぼうに返し、回していたペンを筆箱につっこんだ。あれ、やめちゃうの?なんていう名字の声に適当に返しながら机に突っ伏した。
ただの一言に嬉しくなったり、何気ない言葉に照れたり。女子に対して可愛い、なんて思ったり、もっと顔を見ていたいなんて思ったり。どうしてしまったのだろう。はあ、大袈裟に溜息を吐く。おーい、どうしたー?なんて声が聞こえてきて、反対側にいる名字の方へ顔だけ動かした。きょとんとした顔で首を傾げてこっちを見ている姿にさえ可愛いと思ってしまう。危うく声に出すところだった。危ない。



俺、名字のこと好きになってしもたみたいや。



名字は俺から興味をなくしたように今度は手元の携帯に夢中になっている。気まぐれなやっちゃな。
携帯の画面を見つめる名字の目は真剣そのものだった。忙しなく動く指を見上げるようにして見つめていると、そばに置いてあった自分の携帯が震えた。頭をゆっくり机から離して携帯を手に取り、画面に表示された文字に従ってメール画面を開けば、本文には名前さんがハートをプレゼントしました!と表示されていた。隣の奴を見れば「ハートなくなっちゃった!」と携帯を突き付けられ、その画面には最近はまっているアプリが表示されている。

「今送ったるわ」
「ありがと!」

途端目を輝かせる名字に小さく胸が高鳴った。指をスイスイと動かし、ハートのスタンプを適当に選んで送ってやれば、「スタンプじゃない!違う!」と抗議の声が上がる。冗談やっちゅー話や。
今度こそ、名字が開いているのと同じアプリを立ち上げ、その中から名前の文字を探す。スクロールした先にようやく見つけた名前をタップしてハートを送ってやった。ついでに先ほど名字から送られてきたハートも受け取っておく。

「お前、弱いなあ」
「え、そう?」
「どのキャラ使っとんの?」

下から数えた方が早い順位にいる名字の携帯を覗き込む。

「俺と同じやん」
「そーだよ!忍足いっつも1位だから真似して同じの使ってんの」
「何で俺と同じの使ってそんなスコア低いねん」
「逆にこっちが訊きたいんですけど」

そう言って口を尖らせた名字に頬が緩んだ。そんな表情でさえ可愛いなんて。気を引き締めるように口元に力を込める。油断するとポロッと心の声が漏れそうや。

「アイテムつこてる?」
「使ってるよ!」
「スキルレベル俺よりええやん!レベルもマックスやし」

それで何でこんなに差が出るというのか。名字がさらに口を尖らせた。ドナルドの真似?そう訊くと思いっきり睨んでくる。その嘴つまんでやりたい。

「ちょっとお手本見してよ」

ハートあげたでしょ、そう言って隣から勝手に俺の携帯を操作しだす名字を止める間もなく、画面にはスタートの文字が表示される。しゃーないな。

「ほな、よう見ときや」

にやりと口角を上げ名字を見てから、左手の人差し指を画面に滑らせる。すらすらと動く指を目で追いながら名字が感嘆の声を洩らした。
終了まで5秒を切ったところで、先ほどから「へー」とか「そんなするんだ」なんて声が聞こえてくる方を盗み見ると、思っていたよりも近くにあった名字の顔に思わず手が止まってしまった。画面にスコアが映し出されると最後の追い上げが甘かったせいで、普段よりも低い点数に肩が下がった。別にええんやけど。
自分としてはあんまりな結果に終わったのだが、名字からしたら充分な点数だったのか先ほどから興奮の声が止まらない。

「めっちゃ早かった…私には無理だ…」
「スピードスターなめたらアカンで」

ゴールデンフィンガーやっちゅ話や!そう言って人差し指を伸ばすと、それはすぐさま名字の手に捕まった。そしてそのまま手の甲目指して折られる。

「ぎゃああああ!何すんねんドアホ!折れるわ!!俺の大事な人差し指がイナバウアーしとったやんけ!」
「なんかイラっときた。ゴールデンフィンガーの発音にもイラっとした」

イナバウアーは本来背中を反らせることとは関係ないだのなんだのと目の前の鬼は真顔で言っているが関係ない。そんなん知っとるわ!いちいち説明すなアホ!
解放された指を、もう片方の手で守るように覆いながら、すでに俺から興味をなくし自分の携帯に夢中になっている名字を睨みつける。こんなやつを1oでも可愛いと思った自分が信じられない。ぜんっぜん可愛くない!ただの鬼か悪魔や!なんならサタンやな!

「おっ?…おおぉ…」

画面から目を離した名字が震える手で携帯を差し出してくる。それを受け取り画面を見れば、ハイスコアの文字。

「めっちゃいい点数出たんだけど」
「よかったやん」
「うん、ありがとう忍足!」
「お、おぉ…」

順位が一気に上がったのがよほど嬉しかったのか、目を細めて笑いかけてくる名字はやっぱり可愛いと思った。調子が狂いそうだ。悪魔だなんだと例えたがやっぱり小悪魔かもしれない。……なんや俺気持ち悪いな。何が小悪魔やねん。しっかりしいや、俺。

「忍足のこと絶対抜こ」
「はっやれるもんならやってみ」
「あ、ブロックしたらランキングに出てこないじゃん。名案」
「え?それだけはアカンやろ!」
「何でよ」
「何でって、そら…とにかくアカンもんはアカン!」
「あっ!?」

今にも俺をブロックしそうな名字の手から携帯をぶんどる。画面にはちょうど俺の名前が表示れていたので(…コイツほんまに俺のことブロックする気やったんちゃうやろな…)そのまま勝手に操作してお気に入りに入れてやる。「そんなことしなくても忍足は一番上に出てくるよ?」なんて横から聞こえてくるが無視だ。あいうえお順に並んでいるので俺の名前が上の方にあるなんてのは解っている。俺が心配してんのはそこやない。

「お前がブロックするなんて言うからやろ!」
「忍足は、そんなに私が好きだったのかぁ」
「なっ…!」

そーかそーかーなんて、からかうような声色の名字に頬が熱くなってくる。顔を見られたくなくて思い切り立ち上がる。

「そ、そーゆー生意気なことは俺に勝ってから言いや!」

名字が俺の顔に目を向ける前に猛スピードで教室から飛び出す。突然のことに驚いたのか、からかうような声色は息を潜め今度は焦ったような声で俺を呼ぶ。振り向きたくなるからそんな大声で呼ばんでくれ!

「お、謙也…廊下走ったらあかんでー」

廊下でクラスメイトと談笑していた白石が俺に気付き声をかけてくる。

「アカンもう俺、溢れそうなんやけど!」
「トイレか?ああ、それなら仕方な、」
「ちゃうわボケ!」

気持ちがやっちゅー話や!



ラインとツムツムの話。常にランキング1位取ってそう