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22 ▼18話と19話の間くらい 外からバイクが走る音がした後に、玄関の方でカシャンと軽やかな音が鳴る。郵便受けに新聞が投げ込まれたのだろう。そのあとすぐにバイクが走り去る音がして、ゆっくりと目を開ける。目が覚めてしまった。まだ起きるには早い時間だし、まだ寝ていたい気持ちもあるしどうしようか。とりあえずトイレ行ってくるか。妊娠してからどうもトイレが近い。 トイレには行きたいけど起き上がるのが面倒だなんて胸の中で愚痴りつつ、布団から抜け出すために胸の下あたりに巻き付いているものに手をかける。まあ当然 銀さんの腕なんだけど。 起こさないようにそっと腕をどかしながら、その重さに愛しさが込み上げてくる。起き上がる前に寝返りを打って銀さんと向かい合う形をとる。すやすやと寝息を立てている銀さんの寝顔を観察してから、胸元にすり寄ると規則正しく鼓動する音が耳に心地よく響いた。落ち着くなあ、好きだなあ。なんて思いながら目を閉じる。ついでに思い切り鼻から息を吸って銀さんの香りをめいっぱい肺に送り込んだ。銀さんの匂いだなあ。落ち着くなあ、好きだなあ。2回も同じこと思ってしまったわ。ちょっと変態入ってなかったかな大丈夫かな。 一度ぎゅうと抱き着いてから布団から抜け出す。布団の方から「んん」とくぐもった声が聞こえたから起こしてしまっただろうかと振り向くと、銀さんの目は変わらず閉じられていてほっとする。どかした腕が先ほどまで私が寝ていた所に再び投げ出されていた。 トイレから戻ると半身を起こした銀さんが手で顔を覆いながら欠伸していた。やっぱりさっき起こしてしまってたのかもしれない。 「起こしちゃった?」 「ん、いや…」 目元を擦りながらもう片方の手で手招きしてくる銀さんに促され、布団の中へ戻る。寝起きでいつもより低く少し掠れた声に胸がきゅうとなる。そんな声も好きだけど、落ち着かないなあ。 「なんか腕が寂しくなったからよ」 私が居ないことに気付いて起きちゃうなんて、何それ可愛い。まだ半分寝てるのかとろんとした目で「お嬢が隣で寝てないと安心できねぇ」なんて言ってくるものだから、なんだか嬉しくて衝動的に銀さんの頬に口付けてしまった。優しく微笑まれてしまえば、どうしようもなく嬉しくなってしまう。 隣に座る銀さんが布団に沈んでいく。「ん」そう言って投げ出された腕を枕代わりに、私も布団へと沈む。向かいあって見つめ合うとなんだか照れくさい。照れ隠しに軽くちょっかいでもかけてやろうか、なんて企ててたら、銀さんが空いた手で猫でも可愛がるように顎の下を撫でてくる。先に仕掛けられてしまった。くすぐったい。 「そんな寂しがりやだったっけ」 からかうように見上げると銀さんがふにゃりと優しく笑った。普段そんな顔しないくせにずるい。寝ぼけてる時の銀さんの破壊力はんぱない。心臓をくすぐってくる。むしろ抉ってくる。えぐいわ。 「腕に乗ってないと落ち着かなくなっちまったんだよ」 銀さんの手が後頭部を撫でて、そのまま優しく髪を梳く。溶かされてしまいそうだと思った。そうやって甘やかして、ドロドロになってしまいそう。身も心もこの人に。 銀さんの体に腕を回して抱き着けば髪から離れた手が私の背中を柔く抱いた。 「まだ早ェよな、もう少し寝ようぜ」 「うん」 額に唇が寄せられる。優しくて、穏やかな気持ちに包まれながら目を閉じる。私も、銀さんが隣にいないともう安心して眠れないかもしれないなあ。音もなく唇は離れて行き、今度は片手で抱き寄せられる。すりすりと胸元に頬を寄せると「くすぐったい」と身体に回された腕に力が込められてしまった。 「苦しいよ…」 「だいぶ優しいだろうが」 「あ、間違えた。大好き」 「どんな間違いだよ」 苦しいくらい、幸せだ。 |