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9 銀さんが顎に手を置きながら「いやぁ、それにしても」なんて思い出すように声を出す。それに何がと答えればにやりと笑った銀さんと目があった。 「お嬢ちゃんが、そんなに俺のこと好きだったなんてなァ」 にやにやとこちらをからかうように見つめる銀さんに顔が赤くなった。にやついたその顔の隣には、どこから出したのか記入済みの婚姻届が見える。 「あっれ、は!ああ言わないと銀さんが死んじゃうと思って!本心じゃないから!」 「本心じゃなくても自分が言ったことには責任持ってもらおーじゃねーか」 ぐいっと顔の目の前まで婚姻届押しつけられる。 そこまで言われてしまうと、子供のようにあんなのノーカン!無理無理!なんて駄々をこねられるはずもなく、渋々銀さんから婚姻届を受けとる。結婚したくないのも意地だけど、自分の言葉にも意地は持たねば、なんて…とほほ。 自分の欄を埋めていると、「それからよ」と銀さんの声。それに目を向けずに声だけで返事する。。 「ここの治療費だけど、これから出していいよね?」 これから?その言葉に目を上げると、銀さんが懐から厚めの封筒を取り出した。 その封筒なんか見覚えが…。封筒の中から何人もの福沢諭吉の頭が出てきてそれを一枚二枚と数えていく銀さん。 「ねえ、それさあ」 「ん?」 「私がひったくられたやつじゃね?」 震える指でさしたそれを、銀さんは諭吉を数えるのをやめずに「そうだけど?」と返す。いやそうだけど?じゃねんだけどぉぉぉぉ!! 「取り返したなら最初にそう言ってよ!信じらんない!」 「あぁ?!取り返してやったんだから細けぇこと気にすんじゃねーよ!」 「諭吉細かくないから!!てかそれ私のお金!返して!!」 「ふざけんな夫婦になったからにはこれは二人の金なんだよ、つまり俺の金!」 封筒を抱きながら銀さんがうなる。いやいやいやいや。おかしい、絶対おかしい。銀さんが今数えてるその諭吉は、私がお気に入りの着物とか金目のものと引き替えにゲットしたものでつまり私の金なのだ。それにそれは結婚する前の独身の時のお金だから、何度も言うけどつまり私の金なのだ。っていうか… 「まだ結婚してない!」 もしかして、銀さんが私と結婚したいのって、お金が目当てなの?! |