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Columbine 黄瀬君が、初めて私に笑いかけてくれた、気がした。 普段から笑顔でいる彼だけど、笑顔じゃなくてちょっとニコって笑った。こんなに優しい顔で笑う黄瀬君も、あんなに優しい目で私を見る黄瀬君も初めてで、きゅううと心臓が締め付けられる。 何より、その笑顔を私に向けてくれたのが嬉しい、その笑った顔をほんの一瞬でも独り占めしてしまった。さっきまでの緊張を一気に和らげてしまう。 どうしよう、どうしようもなく、好きだ。黄瀬君のことが好き。 引き返せるほど軽い気持ちなんじゃないって、黄瀬君にもあの人たちにも解ってもらいたい。こんなに、ドキドキして、黄瀬君を独り占めにしたいなんて。さっき彼女たちに黄瀬君を自分の物と勘違いしているんじゃないか、って言われた時、そんなことない黄瀬君は物なんかじゃないし黄瀬君は私なんて見てないって思ったけど。 今ほんの一瞬でも私だけの黄瀬君がいてくれた、思わず自分の物にしてしまいたいと思ってしまった。彼女たちの言う通りじゃないか。ほんの一瞬の微笑みだけで、それが永遠に私の物であって欲しいと願ってしまうなんて。とてもとても私は欲張りだ。 嬉しいのと緊張が和らいだのが相まってポロリと溜まってなかったはずの涙が急に頬を流れた。 びっくりしたのは私だけじゃなくて、目の前の黄瀬君も同じだったみたいで、黄瀬君は大きな目を更に大きくしてどうしたんスか?!と心配してくれた。そんな黄瀬君の行動が、言動が嬉しい。好きすぎてつらいよ。 心配なんてしなくていいのに、私のこと本当に嫌いならそのまま立ち去ってくれていいのに。そんな顔を向けるから、どんどん好きになってしまうのに。嫌いになんてなれなくなるのに。もしも黄瀬君がこのまま何も言わずに私から目を反らしてこのまま私の隣をすり抜けて歩いて行ってしまえば、…私は黄瀬君を………、…諦められたのに? いや、そんなことされても諦められそうにない。きっと、頑張ればもしかしたら明日の黄瀬君は私に笑いかけてくれるかもしれない、そう思うかもしれない。ここまで貪欲に、黄瀬君に依存してるなんて、いよいよ病気かも。 「そんな黄瀬君の顔初めて見たから、なんかさっきよりずっと黄瀬君が好きだなって思ったら涙出ちゃった」 えへっと口にして笑えば、黄瀬君はまたいつもみたいに眉を下げて困ったように笑う。 「またアンタはそうやって恥ずかしいことサラッと言うんスね」と私の目元を指先で拭った。 一瞬、心臓が止まるかと思った。今日の黄瀬君、なんだかいつも以上に優しい気がするのは何故なのか。私の努力が報われているのか、ただの気まぐれか。 「涙ってあったかいんスね」 黄瀬君の優しさの方がずっとずっと温かいこと、黄瀬君は知ってるのかな。 |