×
Snapdragon コートに響くのはバッシュの底が床に擦れる音やボールのバウンドする音、それから笠松センパイの怒鳴り声。そしてそれ以上に館内に響く黄色い声援。試合中以外に名前を呼ばれればそちらへ目を向け手を振り返す。そしてその直後には必ずといっていいほど、応援している時よりも数段大きな黄色い声が飛んだ。 そんな彼女たちの声に苛立ちを覚えるのはきっと笠松センパイだけじゃないだろう。笠松センパイはヘラヘラ手なんて振ってんじゃねー!と毎度お馴染みのとび蹴りを繰り出してきた。 「気が散ってしょーがねー!」 「痛いっス!!笠松センパイ!」 「うっせー!なんとかしろ黄瀬!」 「なんとかって言われても…」 困ったっスねぇ…。彼女たちの方を見て口元に人差し指を宛がってみる。お願いっスからもう少し静かにしてくださいっス!の意味を込めて。彼女たちは途端にキャーと叫び出して、笠松センパイはその声を聞いてまた俺を睨み付ける。彼女たちは叫び終わった後に自分たちの口元を両手で覆った。あ、解ってくれたみたいっス。 ホッと安堵した所に再びバスケをしている以外の音が、否まるで怒り狂っているチワワのような鳴き声のような声がコート内に大きく響いた。思わず耳を塞ぎたくなってしまうほどの声量に、さすがの笠松センパイも吃驚していた。 「黄瀬くぅーん!!補習で遅れちゃってごめんねー!頑張ってー!」 入り口に目をやれば、苗字さんがこちらに別に待ってもいないのに遅れてごめんとか叫びながら両腕をばさばさと振っている。近くにいる女子たちの顔が引き攣ってるっス…。はあ、と今度こそ盛大な溜息を吐いてしまった。 「別に待ってなかったし!うるさいっスよ!」 「ごめーん!黄瀬君すきー!!」 「いや最後関係ないっスから!」 両手で口元を覆って、叫ぶ時などによくするポーズをしながら彼女は笑顔で言う。いくらなんでも恥ずかしい。 人に見られるのには慣れてるし別に苦手ってわけじゃないけど、流石に恥ずかしくなって皆の目が痛かった。 「珍しく赤くなってね?」 「なっ、てないっスよ!」 「てかさっきの、笠松の怒声より出てたんじゃねーの?」 「うっせーよ!」 何故か笠松先輩の蹴りが俺にクリーンヒットした。俺何も悪くないと思うんですけど…! 試合を再開した後も他の女子の(ボリューム控えめな)声援を遥かに上回る苗字さんの応援は続いた。 バスケに集中しているのでそのせいでボールを落とすなんてことはなかったが、ボールが回ってくる度に叫ばれる「黄瀬くーん!かっこいいーきゃー!!黄瀬くぅぅぅん!!すきいいいい!かあっこいー素敵!!」の声援には集中力を削がれそうになる。何度同じこと言えば気が済むんスかね、あの人は。 「当たり前っスよ!」 「…(ドヤ顔でダンク決めんのね…)」 |