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Daisy 助けるんじゃなかった、そう思ったことはない。だけど何で彼女だったんだ、と思うことはある。 撮影のために赴いた先でクラスメイトが男たちに絡まれてた。見て見ぬ振りするのも人としてどうかと思ったので助けてあげることにした。こっちとしては軽い気持ちだったのだけど、彼女の方はそうではなかったらしく、次の日から俺を運命の相手と確信した、と彼女に突然告白されたのだ。当然ながら俺は彼女に好意を持っていたわけではないので教室の真ん中だったわけだが丁重にお断りした。それでも彼女はめげる事なく毎日のように俺へ好き好きと言ってきては猛アタックしてくる。そのアピールは認めるんスけどね、それでも君を意中の人としては見れないんス。とその度に断るのだが彼女はそんな俺の言葉には耳を貸さない。彼女の行動力というか精神力については尊敬に値するものがある。どうしたらこの子は俺を諦めるんだろうか、思考をいくら巡らせてもいくら行動に起こそうと彼女には一向に効いてくれない。はあ、と少々深めの溜息が本人を前に出てしまった。 彼女は目を丸くした後、「たいへん!」そう叫んで両手で俺の両口を塞いだ。 「むぐっ!?」 「溜息吐いたら幸せ逃げちゃう!」 「あーもっ、アンタのせいで溜息出てるの解ってるんスか?」 「て、手が…黄瀬君が私の手をつか、掴んでる…!」 「人の話聞けよ!」 口を塞いでいた手を掴んで退かせば、彼女は途端に頬を赤くしてぽうっとした目で掴まれた手を見た。 都合の悪いとこは全部スルーっスか…。 「…まったくもう」 「今日ここ洗わないことにする…!」 「それ不潔っスよ」 俺が掴んだ部分を未だに見つめる彼女の目は何故か輝きに満ちている。はわわ〜なんてよく解らない言葉を発しながら、くるりと回って俺へ背を向けた彼女はふらついた足取りでそのまま歩き出した。手首を頭の上に持っていき、そこを見ながらふらふら歩く彼女を皆が避けていく。人が勝手に避ける分、ぶつかりはしないと思うがその内転ぶんじゃないだろうか。気を付けないと危ないっスよーと声をかけようとして、やめた。 彼女との会話を思い返してみる。会話がまったく成立していないことしか思い出せなかった。 「いやー今日もお熱いねー」 「…森山センパイ、どっから…!」 「こんなに脈ないのに頑張るよなー、あの子」 他人事だと思って軽く言ってくれる森山センパイを睨み付ける。が、実際他人事なんだから仕方ない。 「どーせなら俺がもらっちゃいたいのにな、中々可愛いし」 「もらってくれるんならドーゾ、あげるっスよ」 「……ふぅん」 「なんスか?」 「我が物顔で言うんだなって思って」 「……それはっ…!」 ニヤニヤしながらこっちを見る森山センパイに反論の一言でもと思ったけど、そんな隙を与えないくらいセンパイが次々と喋りかけてくる。自分の世界に入り出したのでもういいやと反論するのを諦めておとなしくすることにした。あの人もっスけど、この人とも会話が成り立たないのは何でだろうか。 |