1周年記念:お題で夢を書く:跡部中編 | ナノ
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「お前ら最近一緒に居すぎじゃね?」

そう岳人に言われて思わずフォークを落としそうになった、のを何とか持ちこたえて「誰とだ?」と跡部になりきりながらと尋ねる。

「名前と!」
「部長とマネージャーなんだから仕方ないだろ」
「前より近づいてんじゃねーの?」
「え、そう、かな?」

思わず地が出てしまった。紛らわすように、やわらかい肉にフォークをさしてそのまま口へ運ぶ。食べてますよー跡部くんおいしくてお高いお肉食べてますよー跡部くんですよー。
岳人はそうそれ!と興奮したようにこちらを指差してきた。わけが解らないわたしはただ首をかしげて岳人を見るだけだ。

「名前みてーな返し方するし、癖とか移ってんじゃん!」
「何言ってんだよ、癖なんてない」
「あいつ何か誤魔化す時とか口に何か持ってくじゃん!」
「知るかよそんなん、ただ食べてただけだろうが」

今度こそフォークを落としそうになった。精一杯平常を装い誤魔化してみるも火に油を注いでしまっただけのようで岳人によって全否定された。何故だか解らない。わたしと岳人の間に座っている忍足がニヤニヤしながらこっちを見ている理由も解らない。非常に気持ち悪い。

「跡部が名前のことで知らないことなんてねーじゃん!お前ここ最近おかしいぜ?!」

今度こそ、今度こそフォークが手から滑り落ちてしまった。精一杯の平常心を心がけても何故か頬に熱が集まってくる。分散してくれという私の願いは叶わず熱は保たれ続けている。忍足のニヤニヤがさらに濃くなった。先ほども言ったけど非常に気持ち悪い、さっきの数倍気持ち悪い。いや待てよ勘の鋭い奴のことだ、もしかしてまさか私と跡部が入れ替わったことに気付いているんじゃないだろうか。だから私のあたふたしているところを見てニヤニヤしているんだとしたら。今か今かと核心をつくタイミングをうかがっているんだとしたら。忍足はただの変態に見えて中々のくせものだ。変態と見せかけての天才だ。いや天才と見せかけての変態でもあながち間違いではない。むしろ変態の中の変態だ。変態だから気付けたことなのかもしれない。気持ち悪いだけだった忍足の笑みが今はとても怖い。忍足キモ怖い。

「侑士さっきからキモい!ニヤニヤしてんじゃねーよ!」
「まったくだぜ、アーン」

あんまり言いたくない言葉だけど、忍足の目を欺くには跡部以上に跡部にならなければいけない。自分でも言っている意味が全然解らないけどいつも以上に跡部らしく振舞い本物の跡部をも凌駕するような跡部を演出しなければいけない、それにはこのアーンという跡部独特の単語しかないというわけだ。マジこんなアーンなんてわけの解らない言葉言いたくない言いたくないのだけど私の美的センスに反するのだけども。

「いやあ、ええ感じなんやなあと思って…お二人さん。俺も嬉しいわあ」
「はあ?」
「おいニヤニヤすんな」
「進展したってことやろ?跡部前から名前のこと気にかけとったしな」
「ば、バカ言ってんじゃねー!」
「マジかよ跡部!お前何も言わなかったじゃねーかクソクソ侑士にばっか何でも話しやがって!」
「いや跡部から直接聞いたことはないけどな。見てればわかるわ、名前を見る跡部の切なそうなあの目…ラブロマンスやわあ」
「…………」
「…………」
「キュンキュンやでぇ」
「おおお、忍足っキモいっ!」
「あ、オイ跡部!」

忍足のクネクネ具合も相当キモくて傍に居たくないのもそうだけど、跡部に関してのカミングアウトが衝撃的すぎてなんだかいたたまれなくて罪悪感と一緒になんだか恥ずかしくなって逃げるように席を立った。

「照れ方まで名前に似てきたなぁ…」
「侑士キモい、俺も逃げたい」
「なんでやねん」

岳人もかなりびっくりしてたけど、私の方が絶対びっくりしてるよこれ。何でこんな心臓バクバクいってんの。跡部って私のこと好きなの?!忍足の勘違い?跡部って私のことそんな気にかけてた?気にかけてたっけ?全然ぜんっぜん気付かなかったし…だって約束の一つも守ってくれなかったもん!いつもすっぽかしてばっかだったし……!
跡部が私を見る目がって、えぇ!?なんなのなんなのなんなの、なんなんだ?
跡部とこのまま顔合わせたらまずい、非常に気まずい。さっきの忍足の言葉が本当だったとしたら私は跡部の知られたくないプライベートな事情にまで足を踏み入れてしまったことになる。今更プライベートがどうのとか気にするようなことじゃないかもしれないけど、その事実を私が知っていいわけがないのだ。身体は私でも心までは跡部ではないのだから。今だって平常を保てないのに跡部と面と向かい合った状態で平常を保っていられる自信がこれっぽっちも沸いてこない。
そして今までのことを総合すると忍足は半端ないくらいキモいってことだ。