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2020/06/07 22:30 目の前でレースがあしらわれたハンカチを目元に押し当てよよよと涙を流す婦人を前に、万事屋ガールズがうんうんと同じように涙を目にたっぷりと浮かべながら力強く頷く。 銀時はその様子に顔を引き攣らせる。何この図。内心溜息を吐きたくなるが、依頼人の前だとなんとか思い留まる。 奥から眼鏡をかけた少年―――万事屋銀ちゃんの従業員の一人の新八が依頼人へお茶を手渡すのを見ながら銀時はどうするかと考えを巡らせた。 聞けば目の前で涙を流す女は新婚で、3か月前に祝言を挙げたばかりとのことだった。幸せの絶頂に居るはずの女は顔を歪ませ涙を流しながら話を続ける。ここ最近旦那の帰りが遅いのだと。新八が励ますように「旦那さんお仕事頑張ってるんですねえ」と言う。女は首を振りその言葉を否定する。次に女から出た言葉に場が凍り付く。 「浮気してるんです、あの人」 会社の若い子と。そこまで言って女はわっと泣き出してしまった。新八が慌てて夫人に声をかける。そんな何かの間違いですよと。女は目元を拭ったハンカチを力強く握って「いいえ!」と声を荒げた。女の迫力に負けた新八が押し黙る。 「あの人はプレッシャーに弱い人なんです」 結婚して、周りから子供はと訊かれるようになり、突然自分ひとりの生活でなくなったことにプレッシャーを感じるようになったと。夫人と二人三脚でこれからやっていくことから目を逸らすように会社の若い女に逃げたと夫人が鼻を鳴らしながら言う。 「そんな、ひどい…!」 「あり得ないアル!」 許せない!女の敵!バカ女諸共葬らねば!よし殺そう!と怒り狂いだしたのは万事屋ガールズの二人だった。夫人の両隣に座った二人は夫人の肩を抱きながら天誅!天誅!粛清!粛清!と騒ぐ。何故このバカ二人を同席させてしまったんだと銀時は過去の自分を呪った。 新八が夫人にティッシュを渡しながらバカ二人を宥める。 「だってひどいよ!新婚なのにさあ!他の女と浮気とかありえないんだけど!」 「そんなゲス男を野放しにはしておけないネ!」 面倒な二人が徒党をくんでしまったと銀時は頭を抱える。 「でも浮気してる証拠はないんですよね?」 「それはないですけど」 「じゃあ本当に仕事が忙しいのか、他に何かあるのかもしれないじゃないですか」 「他に何かってそれが浮気だってことでしゃ」 「イヤイヤイヤ、決めつけちゃダメですって!」 「新八はゲス野郎の味方アルか!ケッこれだから男はよォ」 ぷっと神楽が唾を吐きかける。そーよそーよと##name_1##が片手を挙げながら援護する。 「浮気してるっていう根拠は?何かきっかけがあるんですよね」 こくりと小さく頷いて見せた夫人は鞄の中を漁りだし、目当ての物を掴むとこれがと言って目の前の机の上に置いた。 机の上を覗き込めば全員が口をつぐむ。ずん、とその場の空気が更に重苦しくなってしまった。 「こ、これは…」 新八が震えながら出されたそれを指す。そして中立的だったはずの新八までもが万事屋ガールズに加勢し、3人の後ろに立ち拳を突き上げた。天誅!天誅!粛清!粛清!絶許!絶許! 銀時は観念するように溜息を吐き出した。依頼人が、とか考えることに疲れてしまった。夫人が出したそれらを掴んではあともう一度溜息を吐く。何やってんだよ、そんな小言を漏らしたくなった。 |