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2014/01/08 02:51 どこまで続けられるかわからないので 小ネタに更新。完結させられると思ったら連載にしていきます……誰得。笑 今日は今朝から頭が痛かった。梅雨の季節はとうに過ぎ去ったはずなのに、ここ最近ずっと雨続きだった。雨の日はなんだか頭が痛くなるな、そんなことを考えながらふと窓を見上げる。 灰色の空が広がっている。雨が、降っている。晴れの日が続いても体調を崩すし雨続きでも体調を崩してしまう。自分のデリケートさが腹立たしい。窓から目を外し、目的地の保健室へと足を進める。 今は授業中のため私以外には廊下に人影はない。耳を澄ませなくても自然と授業を進める先生の声は聞こえるけど、前を見ると続くのは無人の廊下でなんだか変な感じがした。この廊下が世界の全てだと例えるなら私1人しか世界にはいなくて、世界は私の支配下にあるような、そんな感覚。世界には私だけなんだけど声だけは溢れてるそんな不思議な感覚。 1階まで降りると、雨音が強くなった。下駄箱が近いせいだ。急に外の空気を吸いたくなったので保健室へ向かう道の途中、校舎口へ寄ることにした。 両側に立つ下駄箱の隙間の向こうの窓ガラスのもっと向こう側。私が教室を出た時よりも強まった雨が地面を叩いている。しばらく強く耳に響いてくる雨音に耳をすませていたが同時に頭にズキリと痛みが走った。 「保健室行かなきゃ…」 私は別に授業が嫌でサボりたいわけではないのだから。 下駄箱を2つ3つと通り過ぎ、2年生の下駄箱を通り過ぎようとした時に窓の外に目立つ色が目の端に映る。 足を止めて後ずさって視界の端に捉えた正体を凝視してみる。 「…えっ…?」 気付いたら、靴を履き替えることも忘れて駆け出していた。バシャバシャと地面を鳴らしながら、しゃがみこんでいる女の子の元まで駆け寄る。うずくまったその子はいつからここに居たのか、全身びしょ濡れだった。 声をかけることを一瞬躊躇ってしまう。そんな弱い自分を追い払うようにぐっと拳を握る。 「大丈夫?」 自分から人に声をかけるということを普段からしない私が、まさか初対面の人に対して声をかけるなんて。緊張から声が少し震えた。いけない。そんなんじゃ、この子の方が緊張してしまう。見るだけで、何かワケありと理解できる。自分を守るように両腕で肩を抱く女の子のそばにしゃがんで再度声をかける。 「…、……」 どうしよう、自分の中にある警報がけたたましく鳴っているようだ。 声を掛けた途端、さらにきつく自分を抱いたその子は小さく震えだしてしまった。 「大丈夫、なにもしないよ」 肩に手をかけようとしたそれを引っ込める。浅い呼吸を繰り返すこの子は私を警戒している、そう直感的に解ってしまった。彼女の動揺は、どこかで見たことがある。見たことがある、とは違うかもしれない。 体験という言葉が似合っている。 「大丈夫、本当になにもしない」 なるべく安心させるように言ったつもりだったけど、自分の緊張が相手に移ったりしていないか心配だ。コミュニケーションは苦手だ。 「落ち着いて、ゆっくり、息すってみて」 忍足の姿が脳裏に浮かぶ。彼の真似をするように、彼女に声をかける。 「ゆっくりでいいから、息とめて、」 一度引っ込めた手を優しく背中にやり、撫でてやる。雨が冷たいとか、水を吸う制服が重いとか、濡れた髪が張り付くとかもうそんなの全部どうでもいいくらい、私の中の優先順位は彼女一択になっていた。 「落ち着いて、ゆっくりで大丈夫、もう一度ゆっくり深呼吸して」 彼女が私への警戒を緩めてくれたのか、おとなしく私の指示に従って呼吸を整えていく。 大丈夫と言い聞かせてるのはこの子へか私へなのか…。 「大丈夫…?立てる?」 小さく頷いた彼女にどこか安堵しつつ手を貸して立たせてやる。下駄箱までくると彼女は力が抜けたようにがくりとすのこの上に膝を落とした。 そして、拒絶の言葉が小さく耳に届く。 嫌だ嫌だと小さな声で呟く彼女になんて声をかけたらいいのか解らず、まず自分がしなきゃいけないことを考えた。頭が痛い…よく頭が動かない。冷えた体が余計に頭を痛くさせた。 「……っ、え!?」 「あ、ご、ごめん…」 「何して…っ!」 ごめんともう一度謝って、掴んだ足首から手をパッと離す。 この場でこのままにしておくことも出来ないし、私より長い間外で濡れていた彼女のことを考えると保健室に一緒に行った方がいいと思ったのだ。そのためには彼女の靴を上履きに履き替えさせる必要があったのだが、どの学年なのかもクラスも名前も知らないわけだから上履きがどこにあるかなんて知らないので困った。なのでとりあえず靴だけでも脱ぐ手伝いをと思ったのだが、落ち着いたのかそれとも単に驚いただけなのか彼女はそんな私の行動に目を見開き再び警戒を強めてしまった。 誤解されたままでも困るので、危害を加えようとしたわけじゃないことを説明する。彼女はぽかんとしながら私をしばらく見つめた。人にまじまじと見られることが苦手な私は困ったなと視線を地面に向けた。 「あ、あの…」 「ん?」 「あ、りがとうござい、…ます」 「え、ああ、えっと…」 なんて答えたらいいのか解らずに曖昧に流してしまった。どういたしまして、と言うのはちょっと違うような気がしたから言えなかった。彼女が私の行動を望んでいたとは思えなかった。無理やりお礼を言わせてしまったような気がして、どうも素直にお礼を受け取れない。 「お互いびしょ濡れだし…一緒に保健室行きませんか?」 こくん、と無言で頷いた彼女はもう片方の靴を脱ぐと、鞄から何かが入った白い袋を取り出した。 その白い袋から上履きを取り出した彼女は、入れ替えるように濡れてしまったローファーを袋へと入れ鞄の中へしまった。その様子を私はどんな顔をして見ていたんだろうか。ざわざわと胸の中が騒ぎ出す。ジンと頭の奥が熱くなる。 「おかしいですよね」 「…え?」 「……………」 「そんなこと、ないよ」 やっとのことで絞り出した言葉は、弱々しくその場に響いた。 何と彼女に声をかけていいか解らずにいると、彼女の方から助け舟を出すように「行きましょう」と促されてしまった。 保健室へ行くまでの間私たちはどちらも口を開くことはなかった。最初は何か喋らなきゃと焦ったけれど、次第にそんな焦りは消えた。無理に話題を探して、相手に負担をかけてしまったらという思いが私の思考を止めた。 保健室まであと少し。無言を通していた彼女が静かに言う。 「先輩、ありがとうございます」 ぺこりと頭を下げた彼女の足元を見て、私は初めて彼女が2年生だということに気づいた。 頭をあげた彼女にまっすぐに見つめられ、逃げ場をなくされたような感覚に背中にぞくりとした何かが走った。 「何もしてあげれてないよ」 その一言が精一杯だった。 |