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2013/01/07 00:19 当初考えていた、最終話の流れです。 本編とは全く違う内容で自分にびっくりです。 下書きした紙が出てきたから更新してみました。 そして下書きの部分に書かれていた日付が… 2009/5/2 どんだけ前の物だよって感じですけど、よろしければ追記からどうぞ>< 私は私が嫌いだ。 姉と比べて全てにおいて劣る自分。 全てが、ダメな自分。怖がられてしまう自分。大嫌いだった。こんな弱い自分が。 だからなのか知らないが、私は他人に好きと言われたことがなかった。身内でも姫ちゃん以外は私をよく思っていないし。姫ちゃんという双子の姉にしか好きと言ってもらえない自分。自分を、こんな自分を責めた。ダメだと思い続けてきた。ダメな自分、そう言い聞かせてるみたいに責めた。他人に好きと言ってもらいたい。自分も好きになれないやつが他人を好きになれるのか。そんなやつを好きになってもらえるのか。全ての自問に最初から答えは出てるように自答するノー。 私は私という存在が嫌いだ。だから他人を好きになんてなれない、そんな資格なんてないんだ。 自分を好きになれない奴は他人にも好きになってはもらえない、その答えが正しいとしたら私は一生誰からも好かれることなんてないだろう。私が自分自身を好きになる確率なんてほとんどゼロに近いのだ。どう頑張っても、必死に自分のいいところを探してみても何も見つけられないのだから。ただダメなところが浮き彫りになってしまうのだから。 こんな自分を誰が好きと言ってくれるだろう。嘘でも冗談でも好きなんて言われた事ないんだ。 私を好きと言ってくれる人はいなくても、私は人を好きだと思える。自分が嫌いな私に人を好きになるという資格があるのだろうか。そこは疑問ではあるが、バイト先の店長も、学校の先生も、姫ちゃんも、黒崎くんも小島くんも、浅野くんのことだって私は、皆を好きだと思っている。ただ、一方的に好きなだけ。矛盾したところもあるけれど、ようは私は人に好きと言ってもらいたいんだ。 自分を好きになってもらいたいんだ、他人に。認めてもらいたいんだ、私という存在を。 「すきなんだけど」 そう言われて何かが抜け落ちたような感覚に陥った。 「つきあってほしい」 生まれて初めて言われた言葉だった。嘘でも好きと言われたのも、告白されたのだって全部私には初めてのことだった。好きと言ってくれたのは、隣のクラスの田中くんだ。泣きたくなった。唇をぎゅうと結ぶ。目の前で私に好きと告げたこの人は、本当は姫ちゃんが好きなんだ。 本当は姫ちゃんに告白していて。でも姫ちゃんは彼の申し出を断った。彼女自身にその気がないのだから仕方がないといえばそれまでだけど。 なんのつもりなのか知らないが、それで今度は私に、というわけだ。彼は何を考えているのだろう。 私は彼の事を何一つ知らないし。名前やクラスもつい先ほど彼に言われて知ったのだ。彼の思考がどう導いてこういう結果に至ったのかは私の頭では理解できそうにない。理解したくもない理由がその裏にはきっとあるのだろう。 彼に対して嫌悪感に近いものが胸の中に生まれた。 嫌悪すら覚えるというのに、彼の本当に好きな人もわかっているというのに、彼が私に告げる好きも嘘なのに、それでもたとえその気持ち自体が嘘でも私に向かって吐き出された好きの二文字は驚く程の破壊力を持っていたようで、嬉しいと思ってしまったのだ。少しでも喜んでしまう自分がどうしようもなく情けない。どうしようもない怒りが湧き、その火さえ静かに消え落ちた。哀しくなった。自分がとても哀しい存在に思えてきた。ああ、もう私でさえ自分を救うことができそうにない。 偽りなんていらないと、欲張ってしまう。嘘なんていらない、本当の気持ちは私には向いてない。 嘘でもいい、私のことを見てなくても、それでもいいから好きと言ってもらいたい。そんなの、ウソだった。偽った気持ちはこんなにも悲しくて苦しいものだと知った。 ここまで考えて、理解していながら私は彼へ返事を出すことができなかった。肯定することも否定することも出来なかったのだ。 断る理由なんて考えればいくらでも見つかるのに。愚かだと心底思う。 「返事はいつでもいいから」 その言葉に甘えようとするのは何故だ。 田中くんの告白から一日、私は未だに返事を出していない出していない。 好きなんて言われたのが初めてで、嘘だと解っていながらもそれを喜んでしまう自分をどうしても止められなかった。でもかといって彼の言葉を受け取るつもりもなかった。ならば断れという話なのだけど、人間の感情というのはとても面倒くさいもので否定することもできずにいた。 断る理由はある、けど断れない理由も生まれてしまった。 私はどれだけ自分を可愛がれば気が済むんだろう。彼のためにも、自分のためにもここはきっぱりと断ってしまったほうがいいのに。何故迷う必要があるというんだ。愚かなのは勝手だけど人を巻き込むなという話である。自分自身の責任ではあるけど、傷ついてしまった。 告白されて一日。今は放課後で昨日のあれから24時間が経過してしまった。ズルズル引きずるわけにもいかないのに。 悩んでいるうちに、彼の耳にも入ってしまったようだ。どこから話が漏れて彼に伝わったのか謎だが黒崎くんが告白の件を知ってしまったのだ。更に頭が痛くなる。 出来れば知られたくなかったし、知られてしまう前に解決したいと思っていた。 何故黒崎くんの耳に入ってしまったことに、まずいと思ってしまったのかは私自身よく分からない。 「誰からきいたの?」 「誰だっていいだろ」 険悪ムード100%である。口を開いた黒崎くんからひしひしと伝わってくる痛いもの。その射抜くような鋭い視線が痛いのはまあおいといて、何故彼はこんなにも露骨に不機嫌なオーラを放っているのだろうか。 「受けんのかよ、それ」 「受けるって何を…」 「告白。断んねーのか」 「…解んない」 「解んねーって、何だよ」 座っている私に対して立っている黒崎くん。必然的に彼が私を見下ろす形になる、今はこの距離がとても怖い。 「彼の事を私がよく知らないのに、付き合うなんて失礼だと思う。解ってるんだよ、私が馬鹿だって」 黒崎くんの鋭い視線は変わらず私に突き刺さる。気まずくてとても目を合わせる勇気が湧いてこない。スっと視線を窓へ逃がした。 「…だけど、私を好きって言ってくれたの」 鼻の奥がつんとした。自分の言葉なのに心の中に深く刻みこまれた気がした。痛い痛いと私の内側が悲鳴をあげながら泣いてる気がする。 「人に初めて好きって言われたの」 目を開けているのも、泣くのもつらくてぎゅっと目をつぶった。溜まった涙の粒が頬をつたった。 「嘘でも、嬉しいと思ってしまったの」 それで充分じゃないかって、嬉しいと思ったから彼の気持ちに応える理由にしてもいいと思った。そう告げて、スカートの裾を握った。 悔しい、自分に甘えて、他人に甘えてばかりの自分が。悔しい、本当はすごくすごく悔しい。姫ちゃんの代わりにされるのが。姫ちゃんがダメだったから私に向かう彼が。私を利用して姫ちゃんに近づこうとする彼が。悔しい。田中くんに好きと云われたことが。 嘘なのに、嬉しいと喜んだ自分がたまらなく恥ずかしい。なのに彼の言葉を受け取ろうとしている。 「分からないよ…何で好きじゃないのに好きって言うの?本当は私のことなんて嫌いなのに、好きって言ったの…」 好きでもない相手に好きって言えるのだろうか。それはどんな気持ちなの? 嫌いな相手に好きって言うことは、幸せなの?それで救われるの?分からないよ。私はとても苦しいんじゃないかって思う。 「私は、姫ちゃんじゃないのに…っ!」 言って、姫ちゃんに申し訳なさを感じた。そんなはずはないと思うのだけど、姫ちゃんを傷付けた気がした。 強く握りすぎてスカートには皺が残った。強く握っていた拳にはもう力が入らなかった。 無様、そう呼ぶのが今の私には一番似合っているんだろうな。ぼんやり頭の奥で思った。 ここまで、どうして狂わされるのだろう。どうして“私”として見てくれないの。私にとって好きって本当に大切な気持ちのはずなのに。 何故それを踏みにじられるようなことをされるの? そんな嘘なんて、ちっとも嬉しくない。嬉しいと思ってしまったのはあるけど、やっぱり嬉しくなんてないのだ。 喜んだ自分は本当に好きという気持ちを理解してるのか。そもそも好きとは何なんだ? もっと暖かくて綺麗なものだと思っていた。なのにどうしてこんなに苦しくなるのだろう。綺麗なままの感情でいてくれない。 「嫌われ者の私が、好きって言われたのが、嬉しくて」 舞い上がってしまった。それは認める。 この時初めて、黒崎くんの目を見る。瞬きをすればぼたぼたと落ちる涙はスカートに小さい染みを作った。 私は、いつも泣いてるなとふと思った。 また泣いてる。どこまでも甘くて子供で泣き虫で、嫌気がさす。ゆっくりと、黒崎くんの長い指が目の下まで伸びる。こぼれ落ちそうな涙の粒を掬うように拭った黒崎くんの指先は暖かくて、何故か余計に悲しくなった。 「それ…本気で言ってんのか?」 眉間の皺がいつもより多い。悲しいとか怒ってる時の黒崎くんがなって思った。黒崎くんの表情は怒ってるように見えるけど、彼のブラウンの瞳が悲しそうに見えた。 ゆっくりと目を閉じた。じわり、涙が目尻から離れていく。それをまた黒崎くんの指が掬う。 そして私は、ゆっくりと目を開き首を力なく横へ振った。 「悲しいって、知った。好きって、気持ちもないのに云われることの悲しさを解ってしまった」 静かに吐き出した言葉は、すとんと私の心の中に落ちる。黒崎くんの指が目元から離れていく。スローモーションのようにゆっくりと、離れていく。そのままその手は下ろされることなく私の頭の上へと下ろされた。 「いい加減、そういう寂しい考え方やめろよ」 するり、黒崎くんの指が髪を滑る。 |