知る者、知らぬ者

少し早足にオウカは軍部の廊下を歩いていた。その後ろからは駆け足で瑠璃と永久がついてきている。待って、そう言っているがオウカはそんな声も聞こえていなかった。

「失礼する。」

バンッ、と扉を開け勤務中にも関わらず酒を飲んでいる氷瀧に詰め寄った。当の氷瀧は飲むのを止めるでもなく、真面目にオウカに向き合うでもなく、どうしたぁ?と言葉を返す。

「あいつが、信楽が東方軍にいる。」

「んー、知らなかったか?」

その言葉にオウカはグッと押し黙った。今にも殴りだしそうな雰囲気に付いてきただけの永久や瑠璃は言葉を発することもできなかった。そんなオウカを逆撫でるように氷瀧は続ける。

「あいつがそう簡単に敗けを認めるわけないだろう?それも"間違ってない"事に。それで、お前は何が不満なんだ?居所を知らされていなかったことか?それとも殺し損ねたことか?」

「全てだ。私はあいつが私を裏切ったことも私に殺されなかったことも許さない。あれは、私のモノだ!」

机を叩き、オウカは断言する。その目には深い怒りが写されていた。あいつは自由になりたかったんだよ。氷瀧が頭の中で思う。最初の裏切者。東方軍の中心。実験施設の犠牲者。様々な肩書きはあれど信楽はいつまで経っても氷瀧の一番親しかった同僚だ。だからこそオウカには教えなかった。連れ戻すのではなく、殺そうとしたオウカには。

「あ、あのー…そろそろ時雨さん所に行かないと叱られるんですけど…」

おずおずと手を上げたのは永久だった。隣の瑠璃も同じ思いだろう。それを見たオウカはまるでさっきとは別人のようにそうだな。と笑う。奇妙な不気味さと恐怖を感じたのは二人は初めてだった。

「先に行っててくれ。私もすぐ行くから。」

正直ホッとしたことだろう。二人はそそくさと氷瀧の部屋を後にした。しばらくの間は無言だった、というより何も話せなかった。軽口も、息をするのでさえ難しいと思っていた。

「…永久くん、勇者ですよねぇ〜。」

「は?」

「だってぇ〜、あんな状態で普通言えませんよぉ〜無謀というか命知らずってところですねぇ〜」

あはは、と瑠璃が笑うがその声は酷く乾いていた。いつもなら永久も言い返すが今はそんな余裕も元気もない。というより言い返す言葉もなかった。ぐるぐると考えが巡るが首を振った。考えても仕方ない。

「早く行こうぜ。んで、とっとと休みたい。」

「それは賛成ですねぇ〜。」





(関係ないことなのだから)


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