正義と悪の接触

東方軍「悪」

「ふぅん、武器、ねぇ。これってあの商人、つか情報屋が売ってきたやつだろ?信用できんのか?」

「ロゥ兄さんの選択に間違いがあるわけねぇだろっ!」

自由に動いていい。その言葉通り東方軍の大半は各自好き勝手に動いていた。勿論ルートは様々ながら全て西方軍に向かっている。各言う夜天と夜月も西方軍を倒しながら本拠地へと乗り込もうとしているところだ。

「まぁ、なんでもいいけどなっ!」

ガンっと武器同士がぶつかる音がした。夜月は咄嗟に距離をとり回りを見渡す。飛んできたのは小型のナイフだった。夜天が走りだしナイフを投げたと思われる人物な蹴りを繰り出した。

「あっはは!すごいすご〜い。よく避けられたね〜!しのが褒めてあげるよ〜!」

ぱんぱん、と手を叩き忍は手の上でナイフを操って笑っていた。夜天にとって見たことのない少女だったがその服装は紛れもなく西方軍「正義」の者だ。

「俺も褒めてやるよ。俺の蹴りをかわせたんだからな。」

そう言いながら夜天がもう一回蹴りを繰り出す。忍はそれを避け後ろからナイフを投げつけた。肩をかすめ、一瞬動きが止まるのを忍は見逃すことはない。足を払い、倒れる夜天の上に乗りナイフを突きつけた。

「なにそれ〜、あんな蹴り雷のが速いよ〜?」

「おいおい、他の男の話かよ。」

軽口を叩くも夜天の不利な状況には変わりなかった。直接的な戦闘に自信がある方ではない夜月はグッと拳を握った。腰には拳銃がある。それを使えば忍一人ならば自分でも勝てるだろうと思ったからだ。

「よそ見はしない方がいいよ。」

突然夜月が殴り飛ばされた。咄嗟にガードしたのはいいが腕が痺れて暫くは使い物にはならないだろう。くそっ、と悪態をつき夜月は相手を睨んだ。誰だ、そう聞く前に忍が親しげに声をかけた。

「鉄冶さんじゃ〜ん。珍しい〜時雨さんところには行かなかったの〜?」

「その時雨の命令でね。」

日常会話でもするように二人は笑っていたが夜月は動くことができなかった。一瞬でも動けば命取りになる。そう直感していたからだ。

「随分…余裕みてぇだなっ!!」

力の緩んだ忍に対し、夜天は突き付けられたナイフを叩き落とした。唖然とする忍の胸ぐらを掴み押し倒す。形勢逆転と言うわけだ。忍を助けようと後ろを向いた鉄冶だが隙を見逃さなかった夜月に銃口を突き付けられ、ゆっくりと両手をあげるしかなかった。

「一本取られたね。」

「そのわりには余裕に見えるけどな。」

「あはっ、そりゃ〜そ〜だよ〜。だって、誰が敵は二人だって言ったっけ〜?」

ニヤリと笑う忍。次の瞬間、凄まじい勢いで夜月と夜天を蹴り飛ばす人物が現れた。砂煙が止んでくるとそこに立っていたのは自分達より小さな少女。

「お二人共!お待たせしたであります!!」

「助かったよ、暦ちゃん。」

「ありがと〜」

やばいな。そう思わずにはいられなかった。夜天や夜月には助けに来るような仲間は今はいない。仮に呼べたとしてもそれまで持ちこたえるのは至難の技だろう。ならば、と夜月はあのディムという商人から貰った小さな爆弾を手に取った。

「(こんな所で戦っても、目的には関係ないしな…)」

チッと舌打ちが出た。無意識ながらも夜月にとって逃げの一手は胸に落ちないのだろう。それでも今逃げるのは目的のため、ひいてはロゥのためだ。小さな爆弾は目眩ましには丁度よかった。夜天の首根っこを引いて出来るだけ遠くへと逃げる。あらかじめ用意していた別ルートにつければそれでよかった。

「おいっ!ふざけんなよ!!なんで逃げる!」

「お前がふざけんな!あんな奴らに正面からいって敵うかよ!!」

確かに夜月のいう通りだった。一人ならまだしも癖の強いあの三人を相手どるには些か不安が残る。それをわかっているからこそ夜天は納得のいかない顔をした。油断したとはいえ年下であろう少女から一太刀うけたという現実が悔しいのだろう。

「あの女…絶対に俺が殺してやる…っ」

血の滲む傷口を押さえ、夜天は誓うように言った。






(憎悪か憎愛か)


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