蠢く水面下


首尾は上々、後は彼らがどう動くか。男は待たされている部屋で用意された紅茶に舌鼓をしつつこれからの流れを考えた。あの二人、アルディとディムは上手く動いているだろうか。

「やぁ、待たせたね。浦和。」

「いいえ、お忙しい中失礼したのは私の方ですから。」

ニコニコと笑みを浮かべ、浦和は鞄から一冊のファイルを取り出した。パラパラとページを捲り、先日東方軍が炎を放った町について記したものを開く。

「砂蔵さん、これをどう見ますか?」

砂蔵は開かれたページを眺め、楽しげに口角を上げた。そんな様子に浦和は内心焦りのような感情を覚える。浦和が見せた情報にはいくつかの訂正、つまりは偽の情報が含まれていた。

「浦和。君は私の部下ではないから忠誠を誓えとは言わないよ。ただ、私を騙すには些か雑すぎやしないかい?」

笑みを絶やしてはいないが有無を言わさないような威圧感に浦和は自然と冷や汗が流れるのがわかった。この人は本当に計り知れない。顔には出さずに自分の先急いだ失態を咎めた。

「参りましたねぇ。これは失敬しました。では質問を変えましょう。ああ、身構えないでくださいね。私はただ情報屋として仕事をしているだけですので。…正義と悪、貴方は一体どちらでしょうか?」

これには砂蔵が驚いたようだ。絶やさなかった笑みが止まる。質問の真意を見定めようとしているのだろう。静かに行われる攻防戦。それは一つのノックによって終わりを迎えた。

「砂蔵さん、東方軍の手がかりだが…誰だ、あんた?」

怠そうにドアを開けた氷瀧だが、浦和の姿を見るとまるで敵を見るような目付きに変わった。確かに自分の上司の部屋に見ず知らずの人間がいれば警戒するだろう。浦和はそんな様子の氷瀧に向かい人当たりのよい笑みを浮かべる。

「私は砂蔵さんの友人で浦和と申します。ついでに言えば情報屋をさせて頂いてましてね、よろしければどうぞご贔屓に。」

「情報屋…ああ、なるほど。」

警戒は解いたが未だに氷瀧は不振な目を向けていた。勿論それは間違いではない。砂蔵は承知の上だろうが、浦和は敵味方関係なく利益のあるものにならばいくらでも情報を売るような人間だ。その点でいえばディムのような私情を含むも客を選ぶ情報屋の方が信用に足るに決まっている。

「さてと、何やら忙しいようですからね。私はここらで失礼するとしましょう。砂蔵さん、情報屋としてお一つ忠告しておきましょう。愛国心とやらは、目に見えるものではありませんよ。」

「他ならぬ友人の忠告だ。肝に命じておこう。」

バタン、と扉が閉まれば中の声は全く聞こえることはなかった。最後に見えた氷瀧の牽制するような目を思いだし声に出そうになる笑いを堪える。

「私はあくまで中立だというのに。」

私にまで気を張って大事なものを見落とさなければいいが。

外で待たせていた車に乗り込むと、浦和はどこかへと電話をかけた。二回のコールで電話を切る。それは予め決めていたシグナルだ。決め手には欠けるがあとは流れに任せるしかない。浦和は一つ欠伸をし、目を閉じた。


一回のコールは白、二回のコールはグレー、三回のコールは黒。鳴った電話は二回のコール。

「一筋縄じゃいかねーってか。」

携帯の前で待ち構えていた少女ディムははぁ、とため息をついた。隣に立つアルディが心配気に顔を除かせる。大丈夫、と返すが政府機関に所属するものにそう簡単に会えるわけがない。そうなれば回りから崩していくしか方法はないのだが、そんなコネがあるはずもない。

「と、なれば…東方軍辺りの情報から集めるか。アルディ、浦和さんに連絡しとけ。忙しくなるぞ!」

「はい。」





(目的のためならば)


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