過去の日記

これが、今誰かに読まれている事を願う。
私達が起こした間違いを、二度と繰り返さないように。

■月○●日
私達に命が下る。とある民族を研究せよ。私は医師として彼らと関わった
彼等は私達となんら変わりはなかったが、手渡された"クスリ"は彼等の異常性を治すものらしい。

■月○○日
私は一人の少女が気になっていた。彼らに毎日2回の注射をするだけの事だったが、彼らは皆穏やかだ。そういえば、少女は生まれつき話すことができないようだった。

■月●●日
少女はよく笑う子だ。私には妻も子供もいない。だが、もし子供がいたならこんな子なら幸せだろう。

■月■○日
大変な事が起こった。クスリを投与していた数人が死んでしまった。私は彼らと少しばかり話したことがある。*リス、ア*ー、ス**ー、ロ*モ*、名前を上げればキリがない。誰も彼も優しく、私は彼らを亡くした悲しみに耐えられない。

■月■●日
今日もまた沢山死んだ。仲の良かった親友テ*ニスが助けてと私に言った。私は何も出来ず、親友の手を握ってやるしかできない。何故こんなことになったのだろう。テ*ニス、助けられなくて、すまない。

■月■■日
科学者達が話しているのを聞いた。私は何故気づかなかったのか。科学者達は古来行われていた非道徳的実験を行うというのだ。"キメラ"科学者達はこの言葉を呟いていた。

■月▲△日
上から命令がきた。私達医師は彼らと必要以上に関わることを禁じられた。おかしい。科学者達は何をしようとしているのか。私は信頼している友人の科学者に相談しようと思う。

■月○▲日
友人は頑なに口を割ろうとはしなかった。友人は変わってしまったのか。私はあの少女の事も話した。親友の事も。それほどまでに信頼していたというのに。

■月△△日
医師としての役目が終わった。もう必要ないらしい。そういえば、親友の遺品が見つかった。私には読めない字だったので、古文文字が得意な祖父にでも聞いてみよう。





●月■■日
なんということだ。私はなんという物に手を貸してしまったんだろう。祖父には殺されるのではないか、というほどに叱られた。いや、そんなことよりも少女がまだあそこにいる。助けなくてはならない。親友から託された真実。

●月△■日
日記も最後になるかもしれない。これは祖父に託し、そして、いつか、誰か、暴いてほしい。犠牲になったもの達への唯一の報いとして。
そのためにも全てを記そう。
親友の手紙にはこう書いてあった。

やつら(多分、科学者のことだろう)は俺たちを殺そうとしている。毎日沢山の実験をされた。沢山の機械、強い電流。仲間達は沢山死んでいった。次は俺の番だ。怖い。やつらは人間兵器を作ろうとしている。死なない人間。そんなもの神に反する行為だ。俺はお前だけは信頼している。だからこそ話そう。きっとお前は知らないだろうが、医師が俺達に投与するクリスは科学者が作ったものだ。効力は知らないが、いいものではないことは確かだと思う。勘違いしないでほしい。俺たちはお前を責めたりはしない。お前が優しいことを俺たちは知っている。俺たちは仲間以外から優しくされた記憶なんてなかったから、本当に嬉しかったんだ。だから、どうか。俺が死んだら、仲間達を守ってくれ。

私には守れないかもしれない。けれど、せめて一人でも、あの少女だけでも、私は助けなければならない。


△月○日
孫が残した記録を記す。戦火はすぐそこにきている。しかし、これだけは残さねばならぬ。
詳しくは知らぬ。しかし、予測はできよう。
この戦火、非人道たる実験が成功してしまったのであろう。孫が最後に記した日記から数年。軍が力を持ち始め、紛争にて領土を広げていった。
諸悪の根元は政府に根強い繋がりをもつ科学者だろう。残念ながら個人の特定は出来なかった。だか、やつらが何を作ろうとし、そして作ったのか。被検体の中で一人、奇跡的に絶望的に成功してしまった人間兵器。人間の肉体を破壊、脳を電子化し、成長する兵器として人工知能を内蔵。

ああ、なんと哀れか。医師として許すべからず行為。人としてあってはならぬ。

ならばいっそ、なくしてしまうのが良いのかもしれん。


***


「おや、こんなところにありましたか。」

ガコンッ、と古ぼけた日記が捨てられた。



(綴る途切れた過去)


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