最期の真実を

それは何処かの、誰も知らない一室。幾つもの空席をあけながら映し出されたモニターに目を向ける。

「で、奴は一体何なんだよ。名称じゃなく、本質の話だ。」

その高級な雰囲気のする部屋には似合わない苛立った声でディムは問いかけた。ガンッと机に足を投げ、目の前の二人を睨み付ける。

「君に黙っていたことは悪かったよ。」

砂蔵がモニターを見ながら言った。悪かった、なんて微塵も思ってはいないだろうに。砂蔵に続き、浦和がディムに笑いかけながら話し出した。

「私が手配した駒が間に合ったようでよかった。それで、ディムさん。彼女の本質…いや、この場合は本音、といった方がいいのかな?まぁ、とにかく、それを知ってどうしますか?」

「どうって、百年前国を滅ぼそうとしたんだろ!!それを今あいつはやろうとしてるってあんたらが言っただろうが!!」

埒が明かない、とディムは立ち上がり叫んだ。後ろに控えていたアルディは微動だにせず、しかし殺気だけは常に二人に放っている。

「ああ、それ、嘘ですよ。」

何の悪びれた様子もなく浦和はサラリと言ってのけた。

「は?」

「いくら兵器といっても国一つ滅ぼせるわけがないだろう?彼女がしようとしたことは軍の破壊だよ。」

「あー、砂蔵さん。言ってもよかったんですか?」

けらけらと今まで共闘という形をとっていた筈の二人はまるで子供を相手していたかのようにディムの知らない真実を突きつけてきた。

「騙してたのかっ!!」

ディムが声を荒上げ、隠しもっていたナイフを取り出した。アルディも戸惑う事はなく二人に向かい戦闘体勢をとった。

「騙す?いやですね、ディムさん。私がいつも言っていたでしょう?私達は仲間でもなく、友でもなく、ただの一個人なのだと。信頼も信用もなく、情報だけを見極め信じる。騙したのではなく、利用しただけですよ。」

浦和の言葉にディムはぐっと口ごもる。確かに信頼し過ぎた自分の責任だ。浦和や砂蔵には世話になっているとはいえ、全てを信頼するには危険すぎる人物だった。そのことをディムはあろうことか失念していたのだ。

「それに、君も嘘をついていたんだろう?君の目的。浦和を使い私に近づいた。ディム、君は私を殺すつもりだった。…違うかい?」

「……ディムさん。」

アルディが心配気に声を掛ける。砂蔵のいう通り、ディムは砂蔵を殺すつもりだった。それは絶対に殺してやる、などという復讐心ではない。運よく殺す瞬間があれば殺る。その程度だったが、それすらも軍、つまりは政府に対する反逆罪と取られてもおかしくはなかった。

「アルディ、下がれ。…ああ。そうだ。殺すつもりだった。で、どうする?反逆罪として捕らえるか?それとも、絞首刑か?」

怖くないといえば嘘になるだろう。しかし、ディムはあくまでも強気でいた。

「いや、どうせ崩れる軍のために何故人を殺す必要がある。それに、そんな事で反逆罪にするというなら、この浦和は一体何回私の命を狙ったことか。」

強ばっていた体がふっと解放されたような気分だった。けらけらと笑う砂蔵はなぁ、浦和。と意味ありげな目をしていた。

「さぁ、なんのことやら。でもまぁ、ただ、貴方が不慮の事故で命を落としたなら、それまで隠しもっていた私の知らない情報が出てくるかもしれませんねぇ。」

「はは、それは怖い。ただそれは、君にも言える話だねぇ。浦和。」

穏やかな会話なのに殺伐とした空気をディムとアルディは感じていた。同時に手の上で踊らされていたことに腹が立つ。ふん、と鼻を鳴らすと、ディムはアルディを連れてその部屋から出ていこうとした。

「おや、行ってしまうのかい?」

「…どうせ壊れるだけの軍なんかに興味はねぇよ。」

バタンッと扉を乱暴に閉めたディム達を浦和と砂蔵は眺めていた。そうしてクスクスと微かに笑うのだ。

「まだまだ若いな。」

砂蔵がモニターに向けてリモコンのボタンを押した。崩れるだけの軍本部を映す映像が暗闇に替わる。モニターからはジリジリと耳鳴りのような音が流れていた。

「やぁ、おはよう。"R-106"」

砂蔵が声を掛けるとロトムが映し出された。崩れかけた、電子化したロトムはもはやR-106と呼ぶのが正しいのだろう。

「…何か、ヨウ?」

「貴女の真実を、暴こうかと思いまして。」

浦和がにっこりと笑った。その顔はどこか楽しげで、ロトムは怪訝な顔をした。

「軍ヲ、崩壊させたノガ、キニクワナイの?」

「それは私が頼んだことだろう?」

砂蔵が口を挟む。ロトムがそうだった。と返し、ごちゃごちゃになった自分の記憶と記録を確め始めた。

「ロトムは砂蔵に頼まれタンダったね。軍の崩壊、科学者ノ抹消。後始末。浦和はロトムのモッテル情報だっけ?ま、アクセスされたトキニ半分持ってかれてるダロウけど。」

「私はね、情報も大事ですが、その情報を何故、どうして、どうやって持っていたのか。そういった心情も大事だと思っているんですよ。と、まぁ、これは砂蔵さんの受け売りですがね。…さて、では何故、貴方は…頼まれた"西方軍"の崩壊ではなく、東方軍を巻き込んだ崩壊を完遂させたのでしょうか。ましてや、自分の存在場所であった本部を中心にして。」

ロトムが黙り込み、二人を睨んでいた。しかし、すぐにため息をついたかと思うとそっぼを向きながらぽつり、と話はじめる。

「そう。キット、二人が思ってる通り。ロトムは初めからドチラノ軍も潰すつもりだったし、中心地は本部ダッタ。ナゼナラ、ロトムがそう望んだから。コレハ、全てを巻き込んだ大掛かりナ自殺だよ。」

消えかけた声でロトムは語り続けた。

「始まりはロトムだった。百年前、怖い、助けてッテ、泣いた子がいて、ヤメテしまったけど、それは間違いダッタノ。繰り返された実験。ロトムが残した記録。人間はマナバナイ。繰り返すイキモノ。だから、全部消すノ。間違いとか、過ちトカ、全部全部マッサラに。ロトムが消えたら完成する。ダカラ、邪魔は許さナイ。終わりにしようよ、ゼンブ。」

泣いていた。泣かない筈の、泣けないはずの兵器が確かに泣いていたのだ。モニターがブツリと消えたかと思うと、部屋の照明が割れ破片が雨のように降ってきた。それがロトムの力だとわからないほど二人は馬鹿ではない。多少の傷は受けたものの二人は軽症ですむ程度だった。

「おや、逃がしてしまいましたねぇ。」

「仕方ないさ。彼女がそれほどまでに死にたかったということだろう。確かに、彼女が持っていた記録が消えてしまうのは惜しいけどもね。」

「まぁ、なんにせよ。中々面白い舞台でしたよ。科学者総括監管理部長、砂蔵さん。」

真実は隠される。いつの世も、常に。



(カーテンコールは鳴り止まぬ)

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