生きた兵器

舞台は回る。役者が回る。世界が、時間が、時代が回る。

「物語もいよいよ佳境になりますね。」

ああ、賢い兎が駆け回る。裏方気取りで舞台へ走る。知らぬ鼠が狙われる。飢えた禿鷹、律する大鷲、世界を覗くは梟か。

「何がしたいの?」

「安心してください。決して、貴女の邪魔はしませんよ。」

どうか、どうか、崩れ落ちる舞台の上で。派手で粗末な最後の公演、演じて頂きたい。

「私の望みはただ一つ。」

***

ロゥ、夜月、夜天はただひたすら走っていた。

「ああ!もう!!お前に道案内なんか頼むんじゃなかった!!」

「うっせぇ!ロゥ兄さんに文句つけんなバカラス!!」

この三人、言ってしまえばほぼロゥのせいで見事に道に迷っていた。今自分達がどこにいるのかさえわからない状態だ。

「…はぁ、あの女、ぽっくり逝ってなきゃいいけど。」

「あの女?」

「こいつ、西方側の女に一太刀入れられたんですよ。」

ダッセ、とからかう夜月に夜天は舌打ちをした。けれどそれは大した意味にはなっていない。

「…おい、止まれ。」

突然、ロゥが一つの扉の前で足を止めた。そこは第一書庫と書かれていた。他の部屋とは違いこじんまりとした部屋だ。

「ここに何があるってんだよ。」

「ただ西方軍を倒したところで何になる。奴らの悪事の一つでも晒してやらなければ直ぐに反乱が起こるに決まってるだろう。」

「さっすがロゥ兄さんです!」

ロゥは綺麗に並べられたファイルを適当に手に取り中を確認し始めた。夜月もそれに習い同じことをしていたが、夜天だけは呆れたようにその場に座り込んだ。

「っち、なんだってんだよ。」

「……おい、これ、見てみろ。」

悪態をついた夜天などお構い無しにロゥが驚いたような声をだした。夜月も夜天もロゥの持っていたファイルを覗く。そこに記されていた内容に二人も驚愕を顔に浮かべるしかできなかった。

「……おいおい、まじかよ。」

「これ、ヤバイんじゃないですか…。」

「そうだよ。とっても。」

突然聞こえた声に三人は振り向いた。全く気配を感じなかったのだ。そこには可愛らしく微笑む少女の姿があった。

「答えろ、これはどういう事だ。こんなもの、ありえないっ!!」

ロゥが声を荒上げた。けれど、少女は臆することはない。微笑みを浮かべたままニィ、と口を動かした。

「そのままの意味だよ。」

少女が腕をゆっくりと上げ、ロゥが持っているファイルを指差した。すると、突然ページが捲れ、バラバラと床に古ぼけた資料が広がる。三人は確かな恐怖を肌で感じていた。

「最強の、最高の、最悪で、最低な兵器。それを作り上げようとした。けれど、そんなものは机上の話でしかなかった。」

ゆったりとした口調で少女は語る。

「誰かがいった。生きている兵器を作ろう。学び、経験し、成長する兵器。そこで始まった、最初の実験。ある町の人間を全て巻き込んだ史上初、最大の人災。」

少女は足元に落ちている資料を一枚拾い上げた。そこには小さな少女の写真が写っている。

「成功した一人の少女。生きる事を強いられた、人として死んでいった、兵器として生まれた、生きる電子。」

その少女は資料の少女と同じ顔をしていた。だが、それは数十年前、数百年前の資料のはず。

「実験番号A1969。人工知能型電子兵器。R-106。通称【ロトム】」

グシャリ、とロトムは持っていた資料を握り潰した。

「侵入者を、排除。」

バッ、とロトムが右手を上げると三人の後ろでいきなり爆発が起こった。壁に打ち付けられる三人をロトムが眺める。かろうじて軽い火傷程度ですんでいるようだ。

「これで、証拠は燃えちゃったね。」

ロトムが可愛らしく笑い、燃え盛る炎を背景にくるくると楽しげに回って見せた。そして、タンッと軽い音をたてたかと思うとロトムの周りにバチバチと電気の弾けるような音が鳴り始めた。

「ばいばい。」

バチィッ、とより一層電気の弾ける音が部屋に響いた。誰が悲鳴を上げるわけでもない。一瞬の出来事だった。煙が部屋を包み視界を悪くする。ロトムは細やかな電子に姿を変えていく。そうして部屋はただ燃え盛る炎のみとなった。

「随分派手にやるもんだな。」

扉の前でディムが笑って見せた。その姿にロトムは怪訝な顔をする。フイッと顔を背けると無言で立ち去ろうとした。

「話があるんだよ。兵器さん?」

ロトムの手をつかみ、ディムが馬鹿にしたように言葉を放った。それにロトムは顔をしかめただけで特に反応することはなかった。

「手短にね。」

「短いさ。アンタの目的とやらは何だ?」

その瞬間、ディムの手にビリッとした電気が走った。慌ててアルディがディムをロトムから引き剥がす。当のロトムは笑っていた。

「好奇心は猫をも殺す。過ぎた詮索は長生きできないよ。知りたがりなお嬢さん。」

「…はは、こりゃあ、調べた甲斐があるってもんだな。アンタ、数百年前にも同じことをやったんだろ。また、繰り返すのか?」

腕を押さえ、ディムが真剣な目をした。

「あれは、失敗だった。甘かった。温かった。柔かった。ロトムはね、決めたの。次は失敗しないって。だから、邪魔、しないでよ。」

稲妻のように、光るものがディムとアルディの前に撃ち出された。床は裂け、灰色の煙がゆらゆらと揺れている。風圧で吹き飛ばされた二人が目を開ける頃、ロトムの姿は既になかった。

「ディム、さん。」

「くそ、あいつ…っ!」



(ゴッコ遊びは終わりにしようか。)

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