正しい答えの見つけ方

先陣を切ったのは少年少女。彼らは確かに引き金となった。

「…あっちも色々大変そうだね。」

「あの二人がガキに負ける訳ねーだろ。」

虎銀やレジーの様子を見ながら水嵐と信楽は軽口を叩きながら相手を見据えた。

「そうだと思うか?あいつらは強いぞ?」

「いいからとっとと始めようよ。」

ファンドルが痺れを切らし、武器である銃を水嵐に向けた。当の本人は少しだけ目を伏せ微笑んでいた。

「お前はやっぱり、そっち側なんだね。」

「…うるさい。氷瀧さん。そっちは任せた。俺は…こいつを、倒すから。」

ファンドルはそういうと二丁目の銃を手に取り構えた。後ろにいる夜来は動く様子はなくただその様子を見ていた。

「それ。おにーさんが教えたんだよね。」

「うるさい。」

「ちゃんと使えるようになったんだ。」

「うるさい。」

一歩、また一歩と水嵐がファンドルに近づいていく。その度にファンドルの腕は震え、それでも銃口を水嵐から外す事は無かった。

「(もし、こんな世界じゃなかったら。)……俺を撃てる?ファン。」

「(もし、こんな世の中じゃなかったら。)…撃たなきゃ、ならない。」

あと、数センチ。引き金を引けば、引けば、引いたなら、終わるはずなのに。

「(もし、君が、)…ファンは甘いよ。さっきも、殺すって、ちゃんと言わなきゃ。」

「(もし、お前が、)……うる、さい…」

((”敵”じゃなかったら、こんな想いはしなかった))

銃声が鳴った。誰も振り向くことなどない。ただ、それを見ていた夜来だけが小さく小さくため息をついた。

「ほら、ね。やっぱり、甘いなぁ…ファン…」

泣きながら、崩れ落ちるファンドルを水嵐は抱きとめまるで後悔しているように「ごめん」と繰り返した。夜来はすでにそれに興味はなく、ただ、謝るくらいならば殺さなければいいのに。なんて最もな正論を口に出す事は無く水嵐を眺めていた。

「……どいつも、こいつも。遠回り、遠回し、あげく迷って回り道。」

泣き崩れる水嵐の頭に銃口を当て、夜来が無表情のまま見下した。

「”愛”しているのに敵になる?”愛”しているから殺す?”生きてる”ことに意味があるのに。それすらわからないなんて、だからこんな事になるんだよ。”愛”しているなら、”愛”があるなら、欲して、愛して、尽くして、そして、彼の為だけに死ぬ。俺にはそれができる。彼に、あの人に、こんな汚い姿は見せられない。彼はいつだって純粋で、純血で、信仰して妄信して崇拝すべき存在。だから、彼を脅かすものなんか、消えてなくなれ。」

「……ごめん。」

その呟きは誰に聞こえる事もなかった。浮かぶのは懐かしかったあの幼い思い出。ドサリと、倒れたその場所から赤が広がった。

「はぁ。会いたいなぁ…銀牙さん。」

***

「あーあ。水嵐の野郎死んじまったのか。」

「冷たいな、信楽。仲間だろ?」

氷瀧の攻撃を避けながら信楽が怪訝な顔をした

「仲間、か。まぁ、そういう事にはなるんだろうな。けど、あいつは違うんだよ。決定的に俺らとは。」

「は?」

「あいつは、正義でも悪でもない。ただのお人好しだ。その点はお前と一緒だな。」

信楽が氷瀧の後ろにまわり蹴り飛ばした。勿論大したダメージにはならないが、それでも信楽が喋る言葉は止まらなかった。

「わかってたんだ。あいつが死ぬ事くらい。わかってて俺は止めなかった。っ、は、ははは!全く、イカれちまってるよ俺はさぁ、なぁ、氷瀧よ。お前なら、正しい答えを出せたのかもな。」

「俺は、迷ってばかりだよ。いつの時も。」

「…そうか。まぁ、いいや。終わらせようぜ、向こうもおわったみてぇだし。」

信楽の手にはナイフが握られていた。ああ、殺される。氷瀧はそれを本能的に感じた。けれど、そのナイフが氷瀧の刺さる事は無かった。

氷瀧が目を開ける。信楽が走っていた。慌て、持っていたナイフさえ投げ出して。さっきまで水嵐の死を仕方ないと言っていた様子が嘘のようだった。その、視線の先に、レジーと虎銀。そして、オウカ。

「し、がらきッッ!!!!」

手を延ばす。けれど、その手が信楽に触れる事はなかった。その背が、数十年前と被って見えた。研究所に連れて行かれたあの時と。



(ああ、また、届かない)

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