狂うは獅子ぞ、食らうは何ぞ
刀の擦れる音、銃声、爆音、怒声、笑い声。多くの足音が交差する。鉄臭い匂いが部屋に広がる。
「あはははは!すごいすご〜い!!ねぇ、雷!楽しくって仕方ないよ〜っ!!」
少女が笑う。忍と雷を相手しているのは虎銀とレジーだった。戦闘技術から言えば忍と雷が二人に敵うはずはないのだが、トリッキーな動きをする二人は少なくともその差を埋めていた。
「俺もだよ!あはははは!強い強い!!流石は鬼と言われただけはあるよね!!」
「黙ってないと舌を噛むぞ。」
虎銀が雷に重たい蹴りを食らわせた。が、雷は咳き込みながらもその足を掴む。虎銀ならば直ぐに振りほどけるだろうが、驚いたその一瞬に待ってましたとばかりに忍が落ちていた廃材で虎銀の足を叩き折った。
「っああああああああ゛!」
「虎銀っ!」
すかさずレジーが虎銀に走りより目の前の二人を睨んだ。レジーには虎銀が必要で大切で半身とさえ言えた。それは虎銀にとってもそうで、依存という言葉がよく似合っていた。
「許さないよ。」
「別に許して、なんか言った覚えはないけどね。大体さ、そんな、卑怯者を見る目はやめてくんないかな?」
「ただ単純に強い方が勝つなんか古くさいんだよ〜。こ〜んな泥臭い暇人共の戦いなんだからさ〜。」
二人はまた小馬鹿にしたようにクスクス、クスクスと笑いだした。それが不気味で、レジーは無意識に息を飲んでいた。
「…意気ってんじゃねーよ、そんなに生き急ぎてぇなら、お望み通りに逝かせてやる。」
虎銀が声をあげ、忍の足を撃った。突然の事で対処しきれなかった忍がその場に膝をつく。すかさずレジーが倒れている時雨から刀を奪い、忍を貫いた。
「しの、ぶ?」
グチャリと、肉が潰れる音が雷の耳に届く。無惨に倒れた忍の足をレジーが切り落とし潰した。
「あれ、虎銀がやられたのって右だっけ?左だっけ?…ま、いいか。両方切り落とせば一緒だし。」
声には為らなかった。雷は呆然とするしかなくて、だって、忍を殺した時、レジーの姿は見えなかったのだから。だから、雷にはいつの間にかレジーが忍の前にいて、いつの間にか殺していた。という認識しかできていない。
「は、うそ、忍?なぁ、忍、なんで、倒れてんの…?うそ、だって、まだ足りないじゃん…楽しいこと、…まだ、まだ、全然、満足してないじゃんかっ!!」
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。ひとしきり大声で、感情を剥き出しにして。それでも、何の反応もしない忍に雷は俯き呟いた。
「……飽きた。」
「は?」
それに驚いたのは虎銀だった。飽きたとはどういう意味なのか。
「つまらない。忍がいなきゃつまらない。だから、殺す。」
それまでからかうように逃げに徹していた雷がタンッ、とレジーに一直線に向かっていった。雷の攻撃は的確にレジーの死角を狙っていて、さっきまでのような楽しげな様子は一切ない。
「うっわ!何々、急に殺る気?そんなにコレが大事なの?…そっか、うんうん。そうか。なら、首から上は綺麗なままで返してあげる。それで君は満足?」
「…っ、はは、あはははは!アハハハハハ!!何?ばっかじゃないの?忍を何だと思ってるの?動かないそれはもうただの入れ物だよ。忍は俺の半身で、俺が忍の半身。おっさん達わかる?友人?恋人?家族?いいや、どれも違う。俺は忍だし、忍は俺なんだ。…まぁ、どうせ何言っても理解しないだろうね。」
「はっ、狂ってるな。」
虎銀が嘲笑いながら言った。しかし、ひきつった笑いは誤魔化せてはいない。
「…狂ってる、ねぇ…。ははっ、うん、否定はしないよ。でも、それはあんたらもだ。例えば、決して正しくはなかったけど、間違ってはいなかった時雨さんを殺したこと…とかね。」
ニィっと笑い、雷は虎銀に視線をやった。
「…ち、がう。間違ってた。あいつは何もしなかったんだろ。なら、殺されて当然だろうがっ!!レジーや信楽がどんな目にあったか知らないだろ!わかったような口をきくな!」
「知らない。ってか、興味もない。はっきりしないよ、あんた。あんたは一体、何のために戦っているんだか。…認めれば?あんたらがやってることは、っ…!……それが、無意味だっ、つってんだよ……」
無表情で、一言も発することなくレジーは雷の心臓に刃を突き立てた。憎たらしげに睨む雷にレジーは目をあわせることはない。その言葉さえ聞こえないふりをした。
「虎銀。間違ってなんかない。無意味なんかじゃない。西方軍なんか全部、全部ぶっ殺したら、それを証明できるのかな?」
「ああ、できるさ。」
虎銀に肩を貸し、レジーが小さく頷いた。
さぁ、早く、早く早く早く早く。全部、壊してしまえ。
二人は気づかない。その後ろに立つ影に。誰かが叫んだ、その声に。
(証明しよう。間違っていなかったと)
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