風邪っ引き日和

元々、信楽は丈夫な方ではなかった。特に、季節の変わり目は体調を崩す事が多い。その日もどこか倦怠感を覚えて不快な朝だった。

「……薬、どこやったっけな…」

ふらつく足を動かし、自分の部屋の引き出しをあけた。風邪薬は常に常備している。信楽は妙に見栄をはっている。風邪をバレないように振る舞うのが常だ。だが、その日は運悪く風邪薬を切らしていた。

「…最悪。」

頭はガンガンと痛む。正直言ってもはや歩くことすら億劫だった。かといって風邪薬なんか買ってきてと頼むのは自分が風邪だといってるようなものだ。仕方なくPTにはバレないように信楽はそっと家を出た。

「あー…頭いてぇ…」

薬は無事に買うことができた。あとは何もなかったように帰るだけだ。さっきより酷くなる頭の痛みに耐えながら家を目指す。

「信楽ー!」

ドンッと勢いよく抱きついてきたのは水嵐だった。いつもなら避けられるが、今は倒れないように踏ん張るのが精一杯だ。

「離れろ、ばか。」

なるべくいつもの口調で水嵐の顔を押し退けた。その後ろでは煌青と氷瀧が呆れたような顔をしている。

「おいおい、なんだ?朝から仲良しってか?」

ケラケラと笑うが信楽はもう立っているのも辛かった。けれど倒れるわけにはいかない。信楽にとって心配される事は吐き気がするほど嫌なことだ。

「偶然だ、偶然。」

「朝から飲むのも悪くないでしょー?」

「どうだ、信楽。今から…って、聞いてるのか?」

三人の言葉が頭に入ってこない。

「あ、ああ…聞い、て……る…」

ぐらり、と視界が反転するのが見えた。心配するような顔が見えて、らしくねぇ顔してんじゃねぇよ、と言おうとした。視界が真っ暗に変わる。信楽の記憶はそこで途切れた。

信楽が倒れた。

それは一瞬のことで、氷瀧は慌てて倒れる信楽を支える。煌青も水嵐も驚いていて、大丈夫か。おい。と言葉をかけるが気を失った信楽は何の反応も見せなかった。

「これ、風邪薬…?」

散らばった袋の中身を拾い上げ水嵐が少し驚いたような声を出した。その言葉を聴いて、煌青は信楽の額に手を当てる。

「…おいおい、こんなので外出歩いてたのかよ、ひでぇ熱だ。」

流石の煌青も微かに苦しげに荒い呼吸を繰り返す信楽を心配げに見ていた。そんな中で氷瀧は信楽を抱き上げ二人に声をかけた。

「ここからだと俺の家の方が近い。悪いけど今日の飲み会は…」

「わかってるよ!信楽を早く休ませなきゃね。」

「ほら、早く行こうぜ。どうせ気がついたら自分で歩くとか言い出すだろうからな。」

***

信楽が気がついた時は氷瀧のベッドの上だった。曖昧にしか記憶のない信楽は暫し放心するが、すぐにその経緯を理解する。それと同時にバタン、と扉が音をたて開かれた。三人が薬を持ってきたのだ。目の覚めた信楽に最初に気づいたのは水嵐だった。

「信楽!よかった、気がついたんだね。」

満面の笑みを浮かべて、持っていた薬と水をベッドの近くに置いた。流石に病人相手に抱きついたりはしない。ニコニコと笑う水嵐の隣をするりと抜け、煌青がまた信楽の額に手を当て、小さく笑う。

「お、よかったな。熱下がったみたいだ。」

「…あー、悪かったな、迷惑掛けて。」

煌青の手を避けるように身を動かして、自嘲じみた顔をした。未だに頭は痛かったが、これ以上不様な姿をみられるわけにはいかなかった。もう大丈夫だから。そういってベッドから出ようとすると、氷瀧と煌青に肩を押されベッドに戻された。えっ、という表情の信楽を無視して、水嵐が水の入ったコップを渡す。

「ちょ、え…?」

「病人は大人しく看病されなきゃね!」

「そうそう、弱ったお前さんなんかレアだしな。」

「と、言うことで、信楽は大人しくな。」





(ああ、愛しいバカどもがっ!)


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