年下の恋


旅から帰った忍はバッサリと髪を切っていた。驚いたと言えば驚いたのだけれど、忍自身あまり気にしていないようだったから俺は「似合ってるよ。」とだけ声をかける。そうすれば忍は少し照れ臭そうに笑うんだ。

「あれ、切り揃えた?」

数日後、忍の髪は綺麗に切り揃えられていた。誰がそうしたなんて一目瞭然だ。きっと夜天あたりが切り揃えたんだろう。その証拠に、忍は切り揃えられた髪を嬉しげに触っている。

「…夜天にさ、切った理由は言わなかったの?」

「え〜言うわけないじゃ〜ん」

ケラケラと笑う忍。俺にだけ髪を切った理由を教えてくれた。強くなるための旅に出ていた忍は数人の男に勝負を挑まれたらしい。勿論忍は勝った。けれど、それに逆上した男が忍のあの長かった髪を掴み攻撃してきたのだという。正直に言えば俺はその男は最低だと思ったし、言ってしまえば殺意だって沸いた。

「そう。」

忍はギリギリのところで、自分の髪を切り男達を倒した。そんな話を聞かされた俺の気持ちにもなってほしいものだ。心配しないはずがないのに。

「雷だけにしか〜言ってないよ〜」

これは自惚れじゃないと思うけど、忍の大切はきっと俺なんだ。でも、特別は夜天なんだろう。忍は俺にとても嬉しい事をいうくせに、とても残酷な事を言うんだ。

「だって〜夜天に話すと〜相手探しだして殺しちゃうでしょ〜?それで〜怪我して帰ってきたらやだからね〜。」

あまりにも愛しげにその名前を出すから、あまりにも恋しげに笑うから、俺は忍の腕を掴んで引き寄せた。少し差のある身長が、埋まらない歳の差がなんだか悔しくて仕方ない。

「俺も、同じことをしたかもしれないよ。」

俺がそう言うと、忍は微笑んで俺の頭を撫でた。確かに俺の方が背は小さいけれど、そこまで差があるわけではない。それなのに、なんだか自分が小さく思えた。

「しないよ。雷は。」

本当に、本当に残酷な事を言うんだ。同じことをしたかもしれない。それは確か。けど、俺はそれ以上に忍の悲しむような事はしたくない。掴んでいた手を離した。短い沈黙がやけに重く感じた。

「…ありがとう〜。心配してくれたんだよね〜?」

何事もなかったように忍が話を切り出した。俺が頷くと満足そうに笑って、行こう。と歩き出した。忍の後を追うように俺も歩き出す。他愛もない話。俺達二人にしかできないイタズラ。忍は俺を弟みたいに見てるのかもしれない。

でもさ、俺だっていつまでも子供じゃない。けど、今はこれでいいと思ったんだ。

「忍。」

「ん〜なに〜?」

「覚悟、しててね。」



(全部奪って魅せるから。)

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